【特集】探究学習と大学入試
❼探究力を入学後の飛躍に繋げるために
静岡産業大学 経営学部長 佐野典秀 / 入試課 齊藤仁志

 今年の4月から高校の授業で必履修科目となった「総合的な探究の時間」。各高校でも探究学習に取り組む一方で,授業の進め方など様々な課題に直面している,といった声も聞こえてくる。そこで今回は,大学教員自ら高校の探究学習のアドバイザーを務め,高校が抱えている悩みのサポートに取り組もうとしている,静岡産業大学にご登場いただく。今年度から「探究プレゼンテーション入試」を実施する経営学部の佐野学部長,入試課・齊藤氏に,探究学習における高大連携の取り組みや,入試への繋がりについてうかがった。

 

入学後の成長を実感する「プレゼンテーション入試」

齊藤氏:本学では昨年度からスポーツ科学部で「スポーツプレゼンテーション入試」を実施しており,今年度からは経営学部で「探究プレゼンテーション入試」を実施します。高校でも総合的な探究の時間が実施される中で,本学の“実学教育”というキーワードも踏まえ,探究と入試を結びつけていこう,ということで始めるものです。
 昨年度「スポーツプレゼンテーション入試」で入学した学生の入学後の状況を見ると,やはり他の学生とは取り組みの姿勢が違います。この入試対策講座を実施した段階では,全くプレゼンをしたことがなかった生徒でも,受講後や入試の段階ではしっかりと表現する力が身につき,成長した姿が見られました。そうした経緯もあり,今年度から経営学部でもプレゼンテーション入試を導入します。


「探究プレゼンテーション入試」試験のポイント

静岡産業大学ホームページ(https://www.ssu.ac.jp/for-applicants/admissions/requirements/sougou/)より


佐野氏:毎年,静岡県を東部・中部・西部と3か所に分けて大学入試説明会を実施しており,会場には高校の先生がお見えになります。その場で昨年「スポーツプレゼンテーション入試」で合格した学生が,実際にどう成長しているかを撮影した動画を,出身高校の先生方にお見せしたところ,映像で記録して持ち帰ろうとなさるほど,先生方がその成長具合に驚いていらっしゃいました。経営学部としてもやはり,高校と信頼関係を結んでしっかり育てる姿勢を示していこう,ということがプレゼンテーション入試導入の第一歩になっています。
 本学には学生が「大化け」するように,入学後,偏差値だけでは測れない力を学びの中で伸ばし,育てていこうという方針があります。そして「大化け」の精神に則り,本学の教員は総合型選抜入試や高大連携にも取り組んできているという背景があります。

静岡産業大学ホームページ(https://www.ssu.ac.jp/guide/idea/)より

 

齊藤氏:「探究プレゼンテーション入試」でも,高校生向け対策講座を実施します。今年度から実施予定のこの「探究プレゼンテーション入試対策講座」では,本学の担当教員が根拠資料になるデータの集め方や分析方法,スライド資料の作成等を一からサポートし,高校生にも分かるように落とし込んでいく予定です。
 やはりプレゼン能力は大学の学びでも,社会に出てからも必要な力なので,高校生のうちに身につけたいという生徒さんは,こちらの入試を選んでもらうと良いと思います。受験する際は相応の準備が必要ですので,その分合格すると全員特待生になれるというのが1つのポイントでもあります。

静岡産業大学ホームページ(https://www.ssu.ac.jp/for-applicants/news/presen2022/)より

 

大学だからできる,探究学習の支援体制

佐野氏:先日,地元の進学校から1,2年生を集めて探究学習の成果の発表会をするので,コメンテーターとして来て欲しいと依頼され,実際に生徒さんが発表する内容を見て,探究として更に深めた方が良い部分などアドバイスをしてきました。また私は情報の教員でもあるので,パワーポイントやスライドの作り方,発表の仕方等のアドバイスも日々行っています。そうした折に高校の先生方とお話をすると,探究学習ではテーマの設定で非常に悩まれている印象を受けます。そこで私たち大学教員がお手伝いできることとして,探究学習に向けてこんなテーマならお手伝いできる可能性があるということを教員1人につき3つまで提案し,テーマと概要を示したリストを高校に送る,という取り組みを今年度から始めます。
 今までも商業高校,農業高校,工業高校については総合学習の時間を使って,答えがないものに対し,様々なチャレンジをして商品開発をするといった取り組みを行ってきていて,そのサポートに声を掛けてもらうことはありました。今年度から新たに普通科にも探究学習の時間が設けられましたが,今まで普通科の生徒はどちらかというと教科書にある答えを正しく短い時間で解答する鍛錬は積んでいるのですが,答えがあるかどうかも分からない問いに対してチャレンジするような姿勢は中々なかったので,そういう意味で普通科の先生方が私たちに助けを求めてきている印象があります。今年がある意味,探究元年になりますので,その意義を本学教員の中でも共有し,まずはスタートとして探究テーマのリストを出してもらいました。もともと大学は答えのないものに対して果敢にチャレンジし,その中で自分なりの答えを見つけるという学びを展開しています。特に社会科学系,あるいは自然科学系はそういう要素が強いと思います。本学はその部分で探究的な取り組みに慣れている教員が多いので,サポート体制を構築することについては今後,比較的スムーズに動いていくと思っています。
 今回のコメンテーター以外でも,高校から探究について大学教員の専門の視点で生徒に話してほしいと依頼をもらうことがあり,出張講義という形で対応しています。本学は,探究で不安を抱えている高校へ向けて,大学の学びに結びつくことを様々な形でアシストしていきます。

静岡産業大学ホームページ(https://www.ssu.ac.jp/for-teacher/lecture/)より

 

主体的に学ぶ高校生をサポートし,大学での学びへ展開する

佐野氏:入学前教育に関しては,どの入試で合格した入学生も基礎学力の向上を目的に基本的に同じプログラムを実施していますが,入学後は「探究プレゼンテーション入試」で合格した学生には専用のプログラムを用意します。まず4月から経営学部の1年生必修科目である基礎ゼミの担当アドバイザーに,プレゼンテーション入試で入学した学生のプレゼン内容に近い研究を行う教員を充てるサポートを実施していきます。加えて本人が希望すれば,なるべく専門ゼミナールや卒業研究の担当教員にも繋がるようにカリキュラムを考えています。
 大学の学びはまさに探究ですので,本学の理想の将来像は,高校で興味を持った探究という営みを4年間かけてゼミや卒業研究に繋げていくことです。そして今後はそれを大学卒業時に高校の先生方にフィードバックし,4年間でこの学生はこういう探究を深めました,と紹介しながら色々な高校との信頼関係を築いていきたいと考えています。

(2022.07.01取材)

 

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