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「体幹」や「コア」って何だろう?
河端将司(相模原協同病院 医療技術部 リハビリテーション室 主任)

(写真:写真ACからtoyaさんによる)

 最近になって,体幹トレーニング,コアトレーニングが大事だと聞くことが増えてきました。そこで,「そもそも『体幹』『コア』という言葉は何を指しているのだろう,そして何を鍛えているのだろう,なぜ鍛えるのだろう」ということを、河端先生に簡単に解説していただきます。(編集部)

 

「コア」って何?

 英語の「コア」を直訳すると(weblioより),「(りんごなどの)芯」,「(物事の)核心」,「(物質の)中心核」となります。つまり,棒状の「芯」や,中心の「点」といえます。一般的にヒトに対して「コア」という言葉を用いるときは,背骨を「芯」で捉えたり,へそ下の身体重心を「点」で捉えたりします。

 また,もっと具体的に,腹腔を構成する深層筋群を「インナーユニット」と称して,狭義に「コア」と表現したり,体幹(あるいは背骨)につく背筋群を含めて広義に「コア」と表現することもあります。

※腹腔とは、お腹の臓器が入る空間のことで、横隔膜・腹筋・骨盤底筋などに囲まれています。

 

図1 「コア」という言葉をヒトに用いるときの一般的なイメージ
 「コア」と言うときには,「芯」で捉えて背骨まわり(左)を,あるいは「点」で捉えて身体重心あたり(右)をイメージしていることが多いようです。

図2 深層筋とは何か?
 例えば「腹筋」といっても一つの筋ではなくて,いくつもの筋があります。皮膚に近いところにある筋肉もあれば,より内臓に近い深いところにある筋肉(これを深層筋と言います)もあります。
 「コア」を考えるとき特に注目するのは深層筋で,本文で触れた「インナーユニット」に含まれるのは,図で示したうちの腹横筋(内腹斜筋の一部も含む)になります。

 

 欧米の科学論文では,例えばcore muscle(コアの筋),core function(コアの機能),core stability(コアの安定性),core exercise(コアエクササイズ)のように,そこで示したいものがコアの「何」であるかが明記されています。一方,日本ではしばしば「コア」とだけ表現されることもあり,発言者がコアをどう捉えているのか曖昧なことも多々あります。このコアという言葉を「芯」や「中心」,あるいは「筋群」の意味で都合よく使い回したり,また安易に「コアを効かせる」などと表現するのは誤解の原因となりますので,表現や解釈には注意が必要です。

 

「体幹」と「コア」では何が違う?

 体幹トレーニングを紹介するwebサイトでは,「コア」=「体幹」と表現されることもしばしばみられます。この表現は正しいのでしょうか? もはや違和感をもたない人がいるほど言葉が独り歩きした感もありますが,少なくとも「イコールではない」でしょう。「コア」については上述の通りですが,同じく「体幹」も発言者の意図によって都合よく使用される曖昧な表現だと思います(トレーニングを行う上で,この曖昧さは必ずしも悪いわけではありませんが)

 平たく言えば,「体幹」はいわゆる「胴体」に相当します。対義語は手足にあたる「四肢」となるでしょう。「頭と首」は体幹に含めない立場もあれば,含める立場もあるようです。では,肩甲骨や骨盤(寛骨)はどうでしょうか? これらは「体幹と四肢を繋ぐ」役割をしますので,体幹トレーニングの対象に含めることも多いです。ただし,あくまで肩甲骨と骨盤は,骨格構造では四肢の一部に分類されます。

図 肩甲骨や骨盤は四肢の一部
 肩甲骨や骨盤(寛骨)は,オレンジ色で示した四肢の一部に分類されます。体幹は⻘色の部分になります。骨格構造上,一連の脊柱 をさす場合は,頭部や首も体幹に含めることがあります。

 

何を鍛えているの?

 では,体幹トレーニングやコアトレーニングは,何を鍛えようとしているのでしょうか? 鍛えると聞くと,真っ先に「筋力」が思い浮かぶかもしれません。もちろん筋力の「絶対値」が低下しているなど,それを強化することが必要となる場合もあります。しかし,体幹トレーニングやコアトレーニングの最大の目的は,「身体運動の円滑化」や「力の伝達の効率化」,すなわち「身体の各パーツの相対的な調和を図ること」とも言えます。

 筆者がこうしたトレーニングを指導する上で留意していることは,大きく以下の3つです。
  ① 体幹と四肢の調和を図る
  ② 体幹自体を上手に動かす能力を高める
  ③ 呼吸との調和を図る

 まず①は,四肢すなわち上肢・下肢の動きに対して,体幹がぶれないことです。一方,②は体幹自体を動かす能力です。両者は一見矛盾するようですが,体幹が“ぶれない”だけで満足していては効率的な身体運動を行うことができません。「上手に動かす」ためには,頭部を中心に体幹が軸ブレせずにしなやかに動くことが重要です。最後に③を忘れがちです。体幹が“ぶれず”に“動ける”ようになっても,呼吸をとめるようなトレーニングでは実際の運動に活きません。例えば腹部の筋は主要な呼吸筋でもあるので,呼吸と動作の協調を無視したトレーニングは有益とは言えないでしょう。

 

なぜ鍛えるの?

 コアトレーニングに期待する効果は何でしょうか? 簡単に言えば,「ケガのリスクを減らすこと」と「身体パフォーマンスの向上」です。しかし,“コアトレは万能”ではありません。上記①~③の「身体の各パーツの相対的な調和を図る」トレーニングを行うことは,「ケガのリスクを減らす身体づくり」にはよいかもしれません。

 一方でパフォーマンス向上となると,より高強度で爆発的(バリスティック)な筋力発揮を目的としたトレーニングが必要です。全身の反動を使ったプライオメトリックス・トレーニングなどが代表的です。もちろん,これらのトレーニングはケガのリスクが高まるので,“身体を上手くコントロールする能力”がベースに備わっている必要があります。

 トレーニングの実施に当たっては,何を目的とするかを意識して,それにあった方法を適切に選ぶことが大切になります。

 
参考書籍:
大修館書店 「ケガをさせない エクササイズの科学」 西薗秀嗣,加賀谷善教 編集
第9章(河端 将司) 科学的根拠に基づいた筋力エクササイズ―体幹― p138-153
 

 

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