言語の標準化を考える

日中英独仏「対照言語史」の試み

言語の標準化を考える
著者 高田博行 編著
田中牧郎 編著
堀田隆一 編著
ジャンル 書籍 > 言語・言語学 > 各論
大学テキスト > 言語学・コミュニケーション学 > 言語学
出版年月日 2022/05/12
ISBN 9784469213911
判型・ページ数 A5・256ページ
定価 2,970円(本体2,700円+税10%)

内容

「正しいことば」はどのように作られるのか

言語が「国語」としての地位を築く過程で、また世界に拡散する場合に、「何が正しい言い方/書き方なのか」が必ず問題になる。「対照言語史」という全く新しい視点を導入し、5つの言語の歴史を比較することを通じて、この「標準化」のもつ意味を多角的に考察する。執筆者同士が紙上で知見をやりとりするユニークな構成。

目次

まえがき

第1部 「対照言語史」:導入と総論

第1章 導入:標準語の形成史を対照するということ(高田博行・田中牧郎・堀田隆一)
1.複数の言語史の対照
2.標準化の切り口(パラメータ)
 2.1 統一化、規範化、通用化
 2.2 標準化の程度
 2.3 標準化と脱標準化
 2.4 使用域
 2.5 領域別の標準化とその歴史的順序
 2.6 標準化のタイミングと要した時間
 2.7 標準化の諸段階・諸側面
 2.8 通用空間
 2.9 標準化の目標となる変種の種類・数
 2.10 標準化を推進する主体・方向
 2.11 標準化に対する話者の態度
 2.12 言語の標準化と社会の言語標準化
3.本書で取り上げる標準化
 3.1 言語の変種と標準化
 3.2 各章の概観
 3.3 学問・教育と宣教の活動
 3.4 標準化の担い手
 3.5 話しことばと書きことば
 3.6 外国人・外国語との関係

第2章 日中英独仏――各言語史の概略
(田中牧郎・彭 国躍・堀田隆一・高田博行・西山教行)
 日本語史の概略/中国語史の概略/英語史の概略/ドイツ語史の概略/フランス語史の概略

第2部 言語史における標準化の事例とその対照

第3章 ボトムアップの標準化(渋谷勝己)
1.はじめに
2.一般民衆の力
3.標準語と共通語
4.共通語の形成過程
 4.1 共通語化のプロセス
 4.2 江戸語・東京語
 4.3 北海道共通語
 4.4 日系カナダ人の日本語変種
5.標準語としての機能と言語的拡張
6.まとめ

第4章 スタンダードと東京山の手(野村剛史)
1.江戸期までの共通語
2.明治共通語
3.「標準語」
4.スタンダードと東京山の手の形成

第5章 書きことばの変遷と言文一致(田中牧郎)
1.はじめに
2.日本語の書きことばの伝統
 2.1 書きことばの文体の交替
 2.2 書きことばの成立
 2.3 書きことばの変遷
3.言文一致への動き
 3.1 西洋語との接触を契機とした言文一致論
 3.2 口語体書きことばの実際
4.小説の言文一致
5.論説の言文一致
6.おわりに

第6章 英語史における「標準化サイクル」(堀田隆一)
1.はじめに
2.英語史における標準化と脱標準化
3.「標準化サイクル」をめぐって
4.ハウゲンによる標準化の4段階
5.トラッドギルの地域的変異と社会的変異のピラミッドモデル
6.英語史の各段階の図示
7.言文一致前後の日本語との比較対照
8.おわりに

第7章 英語標準化の諸相―― 20世紀以降を中心に(寺澤 盾)
1.はじめに
 1.1 伝統的な英語史の時代区分
 1.2 標準化という観点からの英語史の区分
 1.3 標準化の三つの側面
2.20 世紀以降における英語標準化
3.まとめ

第8章 フランス語の標準語とその変容――世界に拡がるフランス語(西山教行)
1.はじめに
2.ケベックのフランス語
3.カリブ海におけるクレオール語の創出とフランス語
4.マグレブのフランス語
5.サブサハラアフリカのフランス語
6.おわりに

第9章 近世におけるドイツ語文章語――言語の統一性と柔軟さ(高田博行・佐藤 恵)
1.ルターの言語:「私はザクセンの官庁に従い語る」
 1.1 広域的通用性
 1.2 官庁語の一般的特徴
2.ルターの文体:「ラテン語の字面に尋ねてはいけない」
 2.1 平明なドイツ語
 2.2 文法書と学校
3.「正しさ」の追究(17世紀)
 3.1 バロックの装飾性
 3.2 ルターのドイツ語の相対化
 3.3 地域に縛られない「根本的正しさ」
4.文体の精緻化(18世紀)
 4.1 ドイツ語文章語の確立
 4.2 自然な文体

第10章 中国語標準化の実態と政策の史話――システム最適化の時代要請(彭 国躍)
1.はじめに
2.東周の標準変種――雅言
3.秦の文字統一政策――書同文
4.漢の口語共通語――通語
5.隋の音韻規範体系――『切韻』
6.明・清の公用語――官話
7.民国の標準文体――文言から白話へ
8.おわりに

第11章 漢文とヨーロッパ語のはざまで(田中克彦)
まえがき――この論文集に参加する私のたちば
1.体験の標準語と紙の上の標準語
2.標準語から「共通語」へ
3.日本語に標準語を求めた明治期
4.1950 年代のオキナワ語問題
5.標準語の制定は、標準として定められた特定方言以外の諸方言の死を求める
6.標準語が方言を言語(国語)とすることによって、新しい言語を作る
7.標準語の起源の発端
8.言語の独立と分散を阻止する装置としての漢字
9.標準語の起源――世界にさきがけて標準語のモデルを示した例としては、何よりも先にフランスの例を参照しなければならない
10.純化運動とcalque(ドイツ語ではLehnubersetzung 翻訳借用と呼ばれる)
11.越境する言語学者たち
言いわけ――あとがきとして

あとがき 
索引

ジャンル