敬語は変わる

大規模調査からわかる百年の動き

内容

「間違い」ではなく「変化」。

敬語はもともと地域による違いも大きく、また特に近代になってダイナミックにそのあり方を変えてきている。1953年以来3回にわたって国立国語研究所が愛知県岡崎で実施した大規模調査の成果を核に、様々な角度から敬語の実態と変化を論じる。「卑罵語」「英語の敬語」「タメ口」等、周辺領域もカバーした総合的敬語論。

目次

前書き

第1章 現代敬語の位置――乱れではなく変化

1-1 敬語は発展途上――この本のあらまし
(1)敬語は成人後に身につく/(2)聞き手を目指す敬語/(3)敬語三分類に戻す

1-2 敬語はどう調査されてきたか
(1)「調べる」という行為/(2)ことばの調査――しくみ/(3)多人数を対象とする調査――使われ方/(4)ことばが「敬語」として機能しているとは?/(5)自称詞の使い分け/(6)自称詞「ワタシ」の使い分けと使い分け方の地域差/(7)待遇表現としての機能負担量

1-3 『敬語の指針』に見る現代共通語の性格変化
(1)敬語の三分類とさまざまな分け方/(2)敬語三分類の典型から周辺への拡散/(3)指針敬語の五分類/(4)現代敬語の六分類から三分類への回帰

第2章 岡崎調査の理論的成果――岡崎で何がわかったか

2-1 年をとると話が長くなる
(1)ことばづかいも成長する?/(2)「実時間」と「見かけの時間」/(3)「岡崎敬語調査」での回答の長さ/(4)岡崎市の外来住民の増加/(5)同一個人の追跡調査(パネルサンプル)/(6)岡崎パネル調査の文の長さの斜め表示技法

2-2 年をとると話が丁寧になる
(1)岡崎の丁寧さの段階づけ/(2)生年実年代グラフから読み取れることの概要/(3)「道教え」の丁寧さ/(4)丁寧さを支配する要因

2-3 「ていただく」の進出と敬語の変質
(1)岡崎の「ていただく」の増加/(2)「ていただく」に見る社会と地域

2-4 平等な社会におけると平等な敬語の進出
(1)ことばから職業がわかる?/(2)職業による敬語の違い/(3)性別による敬語の違い/(4)敬語の民主化・平等化

2-5 配慮表現と談話機能要素の増加
(1)結論は最後に/(2)談話機能要素数の増加も成人後採用/(3)職業と談話機能要素数/(4)談話機能要素数増加のしくみ

2-6 第三者敬語の衰退
(1)くだけた場面では話題の第三者に敬語はいらない?/(2)回答の全体像/(3)改まった場面との比較/(4)敬語運用上の変化――丁寧語化への流れ/(5)方言敬語の衰退

2-7 ライフステージと敬語の成人後採用
(1)敬語の成人後採用とライフステージ/(2)ライフステージの四段階/(3)職業による敬語習得時期の違い/(4)ライフステージの性差

第3章 岡崎敬語の位置づけと発展――理論と研究対象の拡大

3-1 敬語史と方言の対応関係
(1)敬語史と方言のきれいな対応関係/(2)敬語の歴史と方言分布の対応/(3)敬語の方言周圏論的分布/(4)敬語の逆周圏論的分布

3-2 岡崎地方の伝統的敬語の地理・歴史
(1)岡崎地方の伝統的敬語の位置/(2)日本語全体の中の岡崎地方の敬語/(3)近畿地方の伝統的敬語形式/(4)三次にわたる岡崎調査との関連/(5)全体のまとめ

3-3 卑罵語と敬語の発達
(1)下向きの待遇表現/(2)卑罵語と敬語の関係/(3)卑罵語の心理的機能/(4)卑罵語と敬語の地域差/(5)卑罵語と敬語の発達の平行性

3-4 マイナス待遇表現の衰退
(1)悪さしている子どもを叱れるか?/(2)あからさまな非難/(3)相手への働きかけの強調/(4)相手に非があっても配慮してみせる/(5)丁寧体で徹底される発話文体/(6)慎ましくなったのか、他者を警戒するようになったのか

第4章 岡崎敬語の研究法――調査データの公開

4-1 岡崎敬語調査から学ぶ実時間調査の方法論的落とし穴
(1)言語共同体での社会文化的変化/(2)言語理論上の発展/(3)回答者の減少/(4)パネルデータ分析のための統計的モデル/(5)調査への長期的研究資源の確保

4-2 敬語の調査はどのように分析するか
(1)岡崎敬語調査の解説と利用について/(2)岡崎敬語調査データの利用/(3)今後の課題

コラム① 「敬語景観」とポライトネス理論
コラム② 方言敬語と「お」の付く語
コラム③ 市民権を得つつある「ッス」
コラム④ 韓国語の敬語
コラム⑤ 談話としての岡崎調査データ
コラム⑥ 首都圏大学生の第三者敬語
コラム⑦ 「お父さん」の記憶時間
コラム⑧ 二〇世紀に消滅した中国語のメタファー型敬語体系
コラム⑨ タメ口・タメ語はあげつらわれる
コラム⑩ 英語の敬語
コラム⑪ 自分でできる敬語の調査

敬語景観<1>~<4>

後書き
参考文献
索引

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