ガーデニングとイギリス人

「園芸大国」はいかにしてつくられたか

ガーデニングとイギリス人
著者 飯田操
ジャンル 書籍 > 英米文学・英米文化 > 英米文化
出版年月日 2016/10/10
ISBN 9784469246032
判型・ページ数 四六・360ページ
定価 3,630円(本体3,300円+税10%)

内容

EU離脱の選択に潜む自国意識は、イギリスの庭が育てた?!

修道院の思索の庭から、権勢誇示のため贅を尽くした整形庭園へ、そして不屈のイングランド精神を主張する風景庭園から、「古き良きイングランド」の象徴であるコテージ・ガーデンまで、何世紀もかけて、岩だらけの島を花いっぱいのエデンの園に変えてきた、「ガーデナー」の国民と庭園とのつきあいの歴史をたどる。

目次

序章 岩だらけの島をエデンの園に

百花繚乱のイギリス――花いっぱい運動とチェルシー・フラワー・ショー/数々の名園とオープン・ガーデン――夏を楽しむ庭巡り/ガーデナーの国・イギリス――王立園芸協会のめざましい活動/本来は貧しい植物相の島

第一章 海を越えてやってきたもの(一六世紀以前)

ローマ占有時代からノルマン征服までの庭と植物
ブリタニアのローマ風庭園/森の民ブリトン人の文明化/アングロ・サクソン語化した植物名/ノルマン征服のもたらした変化
修道院の庭
思索の庭――修道士たちの瞑想の場/自給自足の庭――外国の植物が持ち込まれた菜園/薬草園――治療院としての修道院
世俗の庭
快楽の庭――富裕層のかぐわしいくつろぎの場/現実逃避の庭――中世ロマンスの「秘密の花園」/庭師と園芸書の誕生

第二章 王侯貴族の大庭園と大陸文化の影響(一六世紀から一七世紀)

権力者の虚勢と追従の庭・園芸文化の開花――テューダー朝
権勢誇示の庭――ヘンリー八世のノンサッチ・パレス/女王を歓待する庭――エリザベス一世とケニルワース/珍しい植物と新しい栽培技術の到来――市民の庭の園芸ブーム/「ハズバンドリー」の伝統――造園マニュアルの流行/本草学の登場――ジェラードの薬草百科
イタリア式整形庭園の流行――前期ステュアート朝
ティブルズとペンズハースト・プレイス――ジャイムズ一世時代の庭/イタリア・ルネサンスの息吹/権勢誇示の庭への批判――ベーコンの庭園論/本草学から植物学への橋渡し――パーキンソンの役割/博物学の夜明け――トラデスカントの珍品収集/ロンドン庭師組合の誕生
不穏な時代の庭――共和政の時代
アップルトン・ハウス――革命派軍人の庭園/隠棲の庭――試練に耐える王党派/実益への傾斜――果樹栽培と森林保護
大陸文化への憧れと自国意識の芽生え――後期ステュアート朝
壮大なフランス式庭園の模倣――チャールズ二世のセント・ジェイムズ・パークの改造/花を愛でる園芸――エピクロスの庭/オランダ式庭園の流行――メアリー二世とウィリアム三世によるハンプトン・コートの改造/アン女王の時代における庭園美学の変化――アディソンとポープの大陸様式への批判

第三章 イングランド式風景庭園と自国意識の高まり(一八世紀)

風景庭園の誕生と発展
田園風景に溶け込む庭――「ハーハー」とブリッジマン/ギリシャ神話の理想郷の再現――ケントの牧歌的造園/壮大なスケールの風景庭園――ケイパビリティ・ブラウンと田園の変貌/風景庭園への批判――レプトンとピクチャレスク論争
風景庭園とイギリス社会の変化
不屈のイングランド精神の主張――風景庭園の政治学/囲い込みによる田園の荒廃――農民を閉め出す風景庭園/アロットメント運動の始まり――コテージの貧民は救われるか/中産階級の郊外の庭――風景庭園の拡散/スノップの田舎暮らしへの揶揄――風景庭園の卑俗化
都市の庭園と新しい植物への関心
遊園地の誕生――都市に田舎を取り入れた行楽地/ロンドン市民の庭園ブームと、装飾としての「花」への関心の高まり/「フロリストの花」の展示会の盛況――プラント・ハンターの先駆けとなった宣教師/植物学の黄金時代――チェルシー薬草園に集まる世界中の植物

第四章 大英帝国の庭と植物(一九世紀)

風景庭園への反発
ラウドンによるガーデネスクの提起/新しい庭の啓蒙に生涯を捧げたラウドン
植物による帝国支配
鉄とガラスの大温室時代の到来――ラウドンの予見/チャッツワースの大温室――花を咲かせたオオオニバス/ニレの大木を取り込んだクリスタル・パレス――万博の功労者・パクストン/ウォーディアン・ケースの登場――小さなガラス・ケースが果たした大きな役割/キュー植物園への批判と国立機関としての再生/帝国のプラント・ハンターたち――世界をまたにかけて大活躍
王立園芸協会の発足
園芸協会創設の動機――植物による世界支配/フロリスト・クラブの展示会からフラワー・ショーへ/国民的行事の様相を帯びるフラワー・ショー/進む園芸の民衆化――素人造園の父シャリー・ヒバード/貧民の心を変えた花の展覧会――園芸による文明化の実践/野蛮な民衆の文明化――園芸の啓蒙活動の隠された意味
ルース・イン・アーベイ(都会のなかの田舎)
室内の自然――ウォーディアン・ケースのもう一つの役割/鉢植え植物の流行――窓辺の小さな庭/庶民にも広がる鉢植え植物――古着との交換もあった/庭園の開放と公園の建設――都会人への田園の提供/行楽の場としての庭園の開放と、都市市民の新しいレクリエーション


第五章 新たなイングリッシュ・ガーデンの誕生 (一九世紀末から二〇世紀初め)

「古き良きイングランド」への回帰
ロビンソンの「野生の庭」――絨毬花壇への反発/ロビンソンに共感した園芸家たち/「イングリッシュネス」――ラスキンの唱えた反産業主義の影響/モリスが導いた田園への郷愁
郷愁のなかで再生されるコテージ・ガーデン
理想化されるコテージ・ガーデン/都会人の夢としてのコテージ・ガーデンと、新しいコテージ・ガーデン
新しい「イングリッシュ・ガーデン」の胎動
もっとも洗練されているのは整形庭園――エリザベス朝の庭の再評価/風景庭園か整形庭園か――ロビンソンとブロムフィールドの庭園論争/「イギリスの庭」としての正統性の主張――「真のイギリス」の追求/庭師による「造園」から、趣味としての「ガーデニング」へ/庭への愛着こそイギリス人の証し――国民文化としてのガーデニング
ジーキルのコテージ・ガーデン
ジーキルとロビンソンの出会い/昔のコテージ・ガーデンへの愛着と、商業主義への反発/庭園設計者と建築家のコラボレーション――ラッチェンズとの出会い/新たな「イギリスの庭」の手本――ジーキルの「色彩の庭」

第六章 「ガーデナーの国民」の成立(一九二〇年代以降)

庭のイングリッシュネス
イングリッシュネスを表象するコテージ・ガーデン/英語・英文学・英国庭園――イギリス人の誇り/「勝利のために耕せ」――第一次世界大戦下の庭
「ガーデナーの国民」の創出
平和な花作りと園芸ブーム――二つの大戦に挟まれた時代/「ガーデナーの国民」――イギリス結束のスローガン/ガーデナーの造った名園――ヒドコート・マナーとシシングハースト・カースル/イングリッシュネスの再定義――第二次世界大戦が終わって/メディアが導くガーデニング――現代の庭

終章 「ガーデナーの国民」の真相
イギリスの庭の変遷――庭園史として/田園と園芸に対する素朴な愛情/庭は自分だけの心地よい巣作りの場

あとがき
参考文献
関連年表
索引

ジャンル