ことばの地理学

方言はなぜそこにあるのか

内容

「カタツムリ」の方言分布は、ほんとうに同心円?

柳田国男の方言周圏論で有名な「カタツムリ」「マイマイ」「ツブリ」等の分布も、ていねいに検証してみると疑問点が…。川や海の交通網、家族制度、人口密度など、多彩な視点から「土地」と「ことば」の結びつきの謎に迫り、方言研究の新たな地平を切り拓く。

▼YouTubeチャンネル「ゆる言語学ラジオ」で紹介していただきました


目次

序 「方言はなぜそこにあるのか」

第1章 川をのぼった「言わん」の「ん」――方言と塩を運んだ川の道

1 東西対立
ナイとン/ことばの東西/東西対立の成立要因/境界の線と帯/動詞否定辞の境界
2 孤立する甲府盆地のン
西日本と連続しているのか/長野県と連続しているのか/静岡県と連続しているのか
3 なぜ、甲府盆地に西日本のンがあるのか
もたらされたン/塩の道としての富士川/ンは一気にさかのぼり、そして広まった

第2章 もうけ話はことばを伝えない――サカイと海の道

1 東北に分布する畿内の方言
「から」の方言分布/サカイの仲間の分布
2 北前船とサカイ
北前船がもたらしたもの/北前船の寄港地とサカイ
3 サカイは地味に広がった
北前船以前の古い道/サカイの分断/カラの導入による分断/サカイの変化による分断/拒否による分断/西日本の体系性
4 つながっていても伝わるわけではない
北前船とことばの伝播/経済活動と人の交流

第3章 せめぎ合いで変わった活用――山の攻防

1 活用
嫌われ者/活用の基本
2 活用の変化
活用は統合する/活用は染まる――ラ行五段化/内的変化と外的変化
3 ウエストコーストとイーストコーストの狭間で
特異な活用の存在/混ざり合う活用/混ざり合う場所/取り込んだのはどちらか/特異な活用のあるところ

第4章 太陽がノボラサッタ(お昇りになった)、花がサケル(咲くことができる)――山の思考

1 太陽が「昇った」は、太陽の動作なのか
太陽が東の空に…/「昇る」は太陽の動作?/生物と無生物/五箇山と庄川
2 敬語
尊敬語と丁寧語/対者と第三者
3 坊様と太陽――太陽がノボラッサッタの位置付け
太陽/住職/天文対話
4 花が咲ケル秋山郷
秋山郷/特徴的な方言/花が咲ケル、水が流レラレル/ことばが映す自然観

第5章 家に「おられる」父親との隔たり――敬語と家族制度

1 父親に対する尊敬語の分布
「お父さん」に尊敬語/「お父さん」には注意が必要
2 尊敬語と集団のウチ・ソト
絶対敬語/ウチとソト/年齢階梯制社会と同族集団制社会/年齢階梯制社会における家族
3 家族制度と父親に対する尊敬語
小家族制の中の親と子/お父さんと近所のおじさん
4 男女差と距離
身内尊敬語には男女差があるのか/尊敬語と距離

第6章 九州と東北のタケカッタ(高かった)――人口とことば

1 終わりなき修正
訛りではないタケカッタ(高かった)、タケクネー(高くない)/システムとしてのことば/合理化のための内的変化/合理化と破綻/破綻を繕う
2 ことばの変化と地域の構成
整合化の分布/同じ変化を起こす社会の違い/構造的差異

第7章 「おら、行くだ」と「おめえ、行くずら」――「いなか」のことば

1 「行くだ」や「言うだ」のような言い方
どこで言うだ/「の」が脱落したのか
2 ズラの深淵
行くズラと行くラ/ズラの起源は何ズラ/ズラからダラへのだらだらとした長い道のり

第8章 なぜ方言はあるのか 

1 方言と分布
方言と俚言/分布があるから、お隣さんがある
2 方言ができるしくみ
共同体とことば/変化は同時に起こらない
3 そして分布になる
変化の始まりと顛末/どのように広がるか/どこに広がり、どこに伝わるか/なぜそこに方言はあるのか

第9章 ことばの地理学

1 「同心円」の不思議
方言周圏論/「かたつむり」の同心円/「かたつむり」を表すそれぞれの分布/同心円の位置
2 ことばの変化と地理空間
中心と連続/飛び火と線香花火/それでも蛇の目はある/蛇の目はどこでも生まれ、めったに繰り返さない
3 言語地理学
「俚言」と「方言」の地理/古典言語地理学/新たな言語地理学を切り拓く

あとがき
事項・人名索引
語形索引

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