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スポーツ科学はどんな学問か:スポーツ科学の各領域
   
体育科教育学
体育学から体育科教育学へ

体育科教育学は体育学の中でもっとも古くからある学問で,公的に体育(教育)が位置づいて以来,研究が続けられてきたといってよいでしょう。わが国の学校に体育が登場するのは明治5年(1872)の学制以降ですが,この体育の指導者を養成する機関として体操伝習所が明治11年に開設されます。以来,学校の体育授業の最適の内容や指導法を開発する研究が始まり,連綿と続いてきました。しかし,「日本体育学会」が発足するのは昭和26年(1951)であったように,本格的に体育(教育)を対象にした科学的研究が始まったのは戦後のことです。

当初の「体育学」とは,体育(教育)を対象に,その科学的・合理的実践を目指して行われる学問である,という認識がありました。体育原理,体育心理学,体育社会学,体育管理,体育生理学,体育力学等々の下位の学問分野は,すべて体育という教育事象を対象にして研究が行われてきたのです。したがって,そこでは「体育(科)教育学」という特別の研究分野はありませんでした。強いて言えば,それぞれの下位の学問分野で生み出された科学的知識や体育の実践的経験に基づきながら,それらを統合して体育科のカリキュラムや指導方法の理論を構築するのは体育原理の役割であると考えられてきたといえるでしょう。しかし,教員養成系大学・学部の授業科目としては,一貫して「体育科教育法」が位置づいてきました。

時代が移り,体育学研究の分化と専門化が著しく進行するようになりました。とくに体育学の研究対象は「体育(教育)」ではなく,「運動(movement)」,「健康運動(exercise)」,あるいは「スポーツ(sport)」へと拡大しました。その結果,近年,国際的には「体育学」ではなく,「スポーツ科学」という学問的総称概念が用いられるようになり,その中の1つの専門分化学として「スポーツ教育学(sport pedagogy)」あるいは「体育教育学(pedagogy of physical education)」が位置づけられるようになってきました。わが国でも,およそ30年ほど前から「体育科教育学会」や「日本スポーツ教育学会」が設立し,活発な研究活動が展開されるようになっています。

体育科教育学とは

さて,体育科教育学とは,一体どのような学問なのでしょうか。端的に言えば「よい体育授業を実現するための諸条件を究明するための学問」です。体育科教育学は,教育学や教授学と深い関係がありますが,体育の具体的内容(スポーツ文化),具体的場面(グランド,体育館,プール),具体的な個人や集団といった条件の中で,「計画を立て,実践し,その中から一般に妥当するような方法上の原理を究明する研究」が不可欠であり,そこに独自性が認められます。体育の諸科学との関係も同様です。体育科教育学は,体育学のさまざまな科学的知識を具体的な人間(子ども)に適用する点で応用的であるが,この要用を可能にする条件や限界を明らかにし,体育科教育実践に固有の法則を見いだそうとするところにも,他の体育専門分化学とは異なった性格を見いだすことができます。

では,体育科教育学の具体的な研究課題はどのような広がりをもっているでしょうか。
中心的な研究課題は,(1)カリキュラム,(2)学習指導,(3)教師養成の3領域にあるといえますが,詳しくは,図のような研究領域の広がりがあります。


体育授業研究(体育科教育の実践的研究)
教授-学習過程の実践を対象として,事実を記述・分析したり,仮説の検証を行ったりする研究
●記述・分析的研究
●プロセス-プロダクト研究
●アクション・リサーチ
●多次元的方法による研究
●質的研究
仮説の提示 仮説の検証
授業づくり研究(体育科教育の実践のための理論的研究)
教授-学習過程の計画のための研究
●体育科の教科論
●目的・目標論
●内容論
●教材論
●方法論
●評価論
事実の提示 事実分析の視点
授業の基礎的研究(体育科教育の基礎や条件に関する研究)
教授-学習過程の前提条件に関わる基礎的研究
●教師論,教師養成研究
●学習者論(ex.発達・発達論)
●体育科教育史
●比較体育科教育学
●体育科教育の政策・制度論
●体育科教育に関わった体育の諸
   科学的研究
●体育科教育学の学問論
図:体育科教育学の研究領域の層

体育科教育学の研究領域は,(1)体育科教育の実践そのものを対象にして行われる「授業研究」,(2)体育科教育の方法原理(目標-内容-方法)を体系的に明らかにし,授業理論モデルを開発する「授業づくり研究」,(3)体育科教育の理論や実践のための基礎的知識を提供する「授業の基礎的研究」で3層から構成されます。

第1の「授業研究」は,実際の授業実践を対象にして,授業の中の事実を記述したり,仮説の検証を試みたりする研究で,つとめて臨床的な性格を持つ研究領域です。実践はある理論モデルに基づいて展開されるが,それらの理論は授業過程の事実や授業成果の分析を通して評価され,検証されなければならない。このような研究は,実証的・経験科学的に行われます。

第2の「授業づくり研究」は,体育科教育学の実践に方向を与える理論モデルを解釈学的に生みだそうとします。そこでは社会的課題,子どもの発達課題,教育学的課題,教育学的知識,体育諸科学の知識,さらに体育実践や授業研究で得られた知識を総合・統合して授業の理論モデルを構築しようとします。

第3の「基礎的研究」は,体育科教育の理論モデルを生み出すための基礎的知識を提供する研究です。体育科教育を対象とする研究は,従来,体育の専門諸科学絵分散して行われてきましたが,体育科教育学ではこれらの研究を組織的に位置づけていこうとします。

このように,3つの研究領域の層は相互に関係を保ちながら1つの体系をなし,全体として体育科教育学を構成します。

体育科教育学を学ぶために

体育科教育学やスポーツ教育学が独立した専門分化学として設立されるようになったのは,1970年代になってからのことですが,この30年の間に国際的に急速に発展しました。とくに,さまざまな学術的な研究方法論が生み出され,これらを適用した研究が活発に行われております。また,これらの研究成果や,研究成果の一般化を図ろうとした理論は数多くの学術誌や著書で公表されています。日本語で書かれた体育科教育の入門書としては以下のようなものがあります。参考にしてください。

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