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スポーツ科学はどんな学問か:スポーツ科学の各領域
スポーツ倫理学
スポーツ倫理学への誘い
「スポーツ倫理学」という学問領域があることをご存知でしょうか。このスポーツ倫理学という領域は,私たちの社会の中で,スポーツがさまざまな意味で,重要な位置を占めるのにしたがって生まれてきたものです。
ご存知のように,かつてスポーツは,国威発揚の手段や国家体制の威信を示すために利用され,その中でアスリートは「勝利至上主義」にまみれ,ドーピングが行われるようになりました。また冷戦が終結した現代では,過剰な商業主義がドーピングを一層頻出させています。また,巨大化したスポーツ・イベントは熱狂的なサポーターによる暴動(サッカーフーリガニズム),テロの脅威,さまざまな環境破壊を引き起こし,現代スポーツは多くの問題を生み出してきました。
他方では,先進諸国のスポーツの大衆化は生涯スポーツ社会を出現させたといわれ,私たちの身近なところにも,近年,総合型地域スポーツクラブが立ち上げられてきました。しかし,タックスペイヤーである私たち市民に「社会権」としてのスポーツ権が保障されているとは,どうも実感として感じられない現実があります。資本の投下による巨大なスポーツ産業の中で,私たち市民は格好のスポーツ消費者になっているのかもしれません。
学校での部活では,体罰が問題となることがあります。信仰上の理由からの体育の武道拒否問題をどのように考えたらいいのでしょう。スポーツをめぐるセクシャルハラスメントも大きな問題です。ゲーム中の選手・監督による暴力や意図的な反則もあります。
このような現代スポーツに噴出する問題を前に,それらを「感情論」や「損得勘定論」ではなく,倫理的側面から客観的に考察し,解決策を示していこうとするのがスポーツ倫理学の役割です。
スポーツ倫理学とは
スポーツの倫理的研究には,大別すると2つの研究領域があります。そのひとつは,スポーツが人格形成に貢献するかどうかを問う,人格陶冶機能に関する研究です。もうひとつは,前述したように,現実のスポーツでの倫理的問題に対する実際的で現実的な解決策を示そうとするスポーツの規範的研究です。
スポーツの人格陶冶機能に関する研究は,スポーツが人格形成にどのような機能を果たすかに関するものですが,これには賛否両論があります。たとえば,スポーツは倫理的価値を促進するという肯定的見解と,むしろスポーツにおける勝利の追求がスポーツマンシップやフェアプレイの精神を堕落させるという否定的見解に分かれ,現在も論争中です。
具体的には,肯定的見解では,スポーツによって公正,正義,不屈の精神,謙虚さ等の美徳が育まれると主張されることが多いですが,希望的願望に終始しがちで,一方的にスポーツを礼賛する傾向があります。他方,否定的見解の理由としては,選手,監督だけではなく,フーリガンのように観客までもがスポーツをめぐって残忍性や凶暴性を発露したり,暴力自体がスポーツの構造の一部分であり,それらが社会の一般的な不道徳を反映していることが挙げられています。
こういった賛否の論争とは別に,元来,スポーツは倫理的に無価値であり,スポーツが特定の目的に奉仕する必要はなく,とりわけ道徳的に人間を涵養させたり,教訓的である必要がないとする立場もあります。この立場はスポーツの倫理学的研究自体に価値が見い出せないとする見解を主張しています。
ところで,スポーツと人格陶冶をめぐる近年の研究では,社会心理学や倫理学(道徳教育学)などの学問的成果に立った,スポーツにおける社会学習論として議論が展開されていることを特徴として挙げておきたいと思います。
他方,規範的研究では,スポーツでの倫理的逸脱現象を前にして,それらにどのような倫理的評価を下し,かつ今後の倫理的指針を提供できるのかが研究の主題となっています。表に示したように,主な関心領域には次のものがあげられます。
(1)スポーツにおける暴力の問題,(2)勝利至上主義(athleticism)の問題,(3)ドーピング問題,(4)スポーツとナショナリズムの問題,(5)大学スポーツの問題,(6)スポーツとコマーシャリズムの問題,(7)スポーツと環境問題,(8)スポーツにおける機会均等及び差別に関わる問題,(9)スポーツにおけるジェンダー(男女平等)問題,(10)スポーツとコロニアリズム(colonialism),(11)スポーツエージェント,など,現代スポーツの問題が多様になるにつれ,スポーツ倫理学の射程もなお拡大し続けている状況にあります。
近年のスポーツ倫理学における規範的研究の主要な特徴は,J.ロールズやR.ドゥウォーキン,R.M.ヘアーらの現代倫理学(規範倫理学)の成果を元に,現代スポーツの倫理的問題に対して,より実際的で現実的な解決策を模索しようとする点にあります。
スポーツ倫理学を学ぶために
スポーツ倫理学は,スポーツの倫理的問題が頻出する1970年代始めからアメリカで研究され出した比較的若い学問領域です。したがって,この領域に関する文献や専門書もけっして多いわけではありません。しかし,次の著書やサイトを活用すれば,スポーツ倫理学の概要を知ることができると思います。
さああなたも,スポーツ倫理学を学んでみませんか。
(早稲田大学スポーツ科学部 友添秀則)
■関連図書
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