WEB国語教室

リレー連載

ソーシャルメディアの社会学

第10回
ソーシャルメディアを使ってプロジェクトを前に進める
――ソーシャルメディアとクラウドファンディング
山本純子インタビュー

「ソーシャルメディアの社会学」第10回では、クラウドファンディングを取り上げます。

ファンディング(funding)とは英語で資金調達を意味します。なにかのプロジェクトを始めようとするとき、大きな壁となるのがお金です。特にお金のかかるプロジェクトを個人レベルで実行しようとすると、その必要資金の大きさの前でくじけてしまい、実現がなかなか難しかったのが実情でした。

しかしインターネットが普及した今、ソーシャルメディアを使ってプロジェクトに賛同してくれる人を世界中から集めることで、個人レベルでも大きなプロジェクトを進められる環境が整い始めてきました。そのようなプロジェクトを進めるうえでの資金調達の方法として注目されているのがクラウドファンディングです。

今回はクラウドファンディングについてその立ち上がりの時期から動向を追いかけ、またコンサルティングも行っている株式会社アーツ・マーケティング代表の山本純子さんにお話をうかがいました。

クラウドファンディングとは何か

クラウドファンディングのクラウドは英語の「crowd」、大衆とか民衆という意味の言葉です。つまりクラウドファンディングとは、大衆から資金調達をするという意味なんですね。具体的には少数の投資家や銀行、企業等からではなく、多数の個人から少額ずつ資金を集めることを指します。よくクラウドコンピューティングとの関係を聞かれるのですが、特に直接の関係はありません。クラウドコンピューティングのクラウドは英語の「cloud」、雲という意味です。

クラウドファンディングの手法自体は特に目新しいものではありません。例えば日本では、古くから神社仏閣の改修のために寄進を募っています。クラウドファンディングを考えるうえでは、この寄進をイメージするとわかりやすいでしょう。寄進はクラウドファンディングそのものの立派な一例です。寄進は主にその地域の権力者やお寺の檀家(だんか)さん、神社の氏子さんなど実世界での人のつながりを利用してお金を集めますが、現代ではインターネットを通じてプロジェクトに共鳴した人からお金を集めることができるようになりました。ですから最近はクラウドファンディングの定義に「主にインターネットを用いて」というただし書きが付くことが増えてきています。

クラウドファンディングの成功事例

クラウドファンディングが大きく話題になった象徴的なプロジェクトとして「TikTok+LunaTik Multi-Touch Watch Kits」が挙げられます。これはアップル社のiPod nanoを本格的な腕時計として使えるようにするプロジェクトで、2010年にアメリカの「Kickstarter」というクラウドファンディングを支援するサイトで資金集めが始まりました。このプロジェクトには1万3512人の支援者が集まり、彼らから94万2578ドル(当時の為替レートでおよそ7700万円)もの資金が提供されました。このプロジェクトは当初の目標として1万5000ドル(当時の為替レートでおよそ123万円)の調達を目指していたのですから、目標額の62倍を超える資金調達に成功したのです。

なぜ彼らはそんな大金の調達に成功したのでしょうか? それはクラウドファンディングが従来の寄付型の支援とは一線を画す特徴があるためです。クラウドファンディングでは、支援した金額によって支援者の受けられる特典が設定されています。「TikTok+LunaTik Multi-Touch Watch Kits」では1ドルから500ドルまでの支援額が設定されていますが、25ドル以上支援した人は実際の製品を発売前に受け取ることができます。また、高額を支援した人は特別色やシリアルナンバーが入った限定版の製品を受け取ることができます。つまり支援に対する見返りがあり、しかもその見返りが「カッコいいプロダクトのプロジェクトを支援する」「カッコいいプロダクトを誰よりも早く手に入れることができる」そして「カッコいいプロダクトの限定バージョンを手に入れることができる」という非常に満足度の高いものなのです。支援者は買い物をするような感覚でプロジェクトを支援することができるのですね。

クラウドファンディングはさまざまなプロジェクトの資金調達に応用できますが、特にこのようなデザイン製品やゲームといったものづくりの分野、映画や音楽などのアート・エンターテインメント分野と特に相性がいいといえます。「TikTok+LunaTik Multi-Touch Watch Kits」のあとも多くのプロジェクトがクラウドファンディングで資金集めに成功し、20のプロジェクトが100万ドルを超える資金集めを達成しています。現時点で最高額を集めたプロジェクトは「Pebble」というiPhone/Android対応スマートウォッチを開発するプロジェクトで、6万8929人の支援者を集め、集めた金額は1026万6845ドル、日本円でおよそ8億1000万円 (プロジェクト成立時の為替レートで計算)にもなります。

クラウドファンディングが盛んなアメリカでは2012年4月に「Jumpstart Our Business Startups Act」(通称JOBS A t、新規事業活性化法と訳されることが多い)が成立し、SEC(アメリカ証券取引委員会)の登録無しでも、未公開企業が適格投資家以外の不特定多数の人々から資金を調達することが、一定の制限のもとで認められるようになりました。ものづくりのプロジェクトだけではなく、起業の資金を集める手法としてクラウドファンディングが認められるようになったのです。

日本のクラウドファンディング

クラウドファンディングは日本においても発展の兆しを見せています。その大きなきっかけとなったのが東日本大震災でした。日本にもクラウドファンディング支援サイトがいくつかありますが、そのさきがけとなった「READYFOR?」は2011年3月、そして「CAMPFIRE」は2011年6月に立ち上がっています。東日本大震災の直後ということもあって、みんなが寄付に自覚的になり、震災復興を本格的に考えだした時期と重なったのですね。このような気持ちとクラウドファンディングとがうまくマッチしたことで、日本のクラウドファンディングは盛り上がりを見せ始めました。そのような背景から、日本では社会貢献系のプロジェクトが比較的多いという特徴があります。

震災復興に関わる代表的なプロジェクトとしては、「陸前高田市の空っぽの図書室を本でいっぱいにしようプロジェクト」が挙げられます。仮設住宅に図書館をつくり、そこに置く蔵書を集めるためのプロジェクトでした。200万円の目標額を立ててプロジェクトを立ち上げたのですが、862人から824万5000円もの資金を集めることに成功しました。このプロジェクトにも従来の寄付とは違う、クラウドファンディングらしい特徴があります。それは1万円以上の支援をすることで、支援者が希望する本を名前入りで一冊その図書館に置くことができるというものです。この「陸前高田市の空っぽの図書室を本でいっぱいにしようプロジェクト」ではほぼ寄付に近い3000円のプランよりも、本を贈呈できる1万円のプランのほうが支援者が多かったのです。単なる寄付にとどまらず、支援者も自らの思いを込めてプロジェクトに主体的に参加できたことが、このプロジェクトを大成功に導いた要因の一つだと思います。

ものづくりやアートプロジェクトに関するクラウドファンディングの成功例は、日本でも出てきています。iPhoneの写真をインスタントフィルムに現像することができる「IMPOSSIBLE INSTANT LAB」というプロダクトの開発は、268人の支援者から531万3600円もの資金を集めたプロジェクトになりました。「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」という映画の上映を支援するプロジェクトでは、これまで800人以上の人から1400万円を超える支援額を集めています。これは専用プラットフォームから調達した事例としては、日本のクラウドファンディング史上最高額の支援額です。このようなプロジェクトがもっと増えていくことを願っています。

教育とクラウドファンディング

また教育の世界でもクラウドファンディングは役立っています。例えばアメリカには「DonorsChoose.org」というクラウドファンディングサイトがあります。ここでは先生や学校が教材や学校の資材、例えば外国語の本やタブレットPCなどをクラウドファンディングで集めているのです。日本でも学校と地域社会との関係がしばしば話題になっていますが、このような形で保護者が学校教育にコミットしていくという方法も今後は選択肢の一つになるでしょう。またその他にも大学や研究所への研究資金を募る「Petridish.org」など、教育や学術の分野に特化したクラウドファンディングサイトがどんどん生まれています。

ソーシャルメディアとクラウドファンディング

クラウドファンディングのここまでの成功を支える土壌として、やはりソーシャルメディアの普及は欠かせません。どんなにすばらしいプロジェクトが立ち上がったとしても、それを支援してくれる人を地道に探すのはなかなか難しいことです。ソーシャルメディア上で友人や知人、そして自分と同じような興味を持っている人とゆるくつながっておくことで、そのつながりから世界中にあるファンディングプロジェクトと出会うことができますし、プロジェクトを立ち上げる側も効果的に情報を拡散させることができます。その情報からプロジェクトへの共感が生まれ、情報のシェアにとどまらず実際に資金的な協賛が生まれていくのです。ソーシャルメディアとクラウドファンディングサイトが両輪となって動くことで実際にものごとが進んでいくダイナミズムは、まさにインターネット的だということができます。

単なる資金集めでは終われない難しさ

しかしクラウドファンディングでなら簡単に資金を集めることができるか、誰にでもおすすめできるものか、といえばそうではありません。クラウドファンディングプロジェクトでは実際にお金が動きますから、当然、実行者にはプロジェクトに対する責任が強く求められます。クラウドファンディングをやる前には、「自分たちは全然見知らぬ人からこれだけの額のお金を集めて、ちゃんとこのプロジェクトが進められるのか?」と自らへ問いかけることが非常に重要です。「自分たちはやりたいし、できるんだ」といった思いだけではうまくいきません。プロジェクトにかける思いに加えて戦略を立てる必要があるのです。

特に支援してくれた人へのケアは重要です。支援者へのケアはいくらやってもやり過ぎることはありません。支援者はもちろん「プロダクトがほしい」とか「映画のクレジットに載りたい」といった見返りを期待してプロジェクトを支援してくれているのですが、それに加えて「このプロジェクトがうまくいくといいな」という善意の気持ちも同時に持っています。モノがほしいだけ、映画が見たいだけであれば、プロジェクトが成功してからそれらに接すればいいわけですからね。この善意の人たちにプロジェクトのマネジメントで嫌な気持ちを抱かせてしまったら、プロジェクトへの愛情が「なんだよ、あいつら!」といった反発に変わってしまうことも十分ありえるわけです。特にプロジェクトへの悪いうわさはソーシャルメディア上ですさまじい勢いで広まっていきます。クラウドファンディングでは人の善意という非常に不安定なものをインターネット上で扱うわけですから、その支援者のケアが非常に重要ですし、場合によっては、コストをかけてでも支援者をケアする人員を配置したほうがよいことさえあります。クラウドファンディングでは悪いうわさで炎上したり、炎上しなかったとしても支援者が落胆したりすると、次の支援はもう受けられないと思ったほうがいいですし、最悪そのプロジェクトが失敗に終わることもあるでしょう。私自身、あるクラウドファンディングのプロジェクトで嫌な思いをして、もうこの人の支援はしないな、と思ったこともあるんです。このようにクラウドファンディングには銀行や投資家からお金を借りるのとはまた違った大変さがあります。

読み手のことを考えた発信が決め手となる

ソーシャルメディア上では大量の情報が日々共有され、その情報の洪水に日々私たちは接しています。そのような環境の中で自分のプロジェクトを効果的に説明し、支援につなげるためには、やはり読み手のことを考えて文章を書くということがとても重要です。これには二つの視点があると思います。

まずは「この文章は最後まで読んでもらえないかもしれない」という前提で文章を書くという視点です。特にインターネットではせっかく書いた文章でも最後まで読んでもらえないことのほうが多いですよね。クラウドファンディングでは「集めたお金をどう使うのか」「支援によってどんな見返りがあるのか」ということが読者の大きな関心事です。しかしクラウドファンディングのプロジェクトページを見ていると、それがページの最後に書いてあったり、一読しただけではよくわからなかったり、あるいは書いていないものすらあったりします。プロジェクトに対する熱意がありあまって、自分の気持ちをぶつけることで頭がいっぱいになってしまい、読者の知りたいことがおろそかになってしまっているんです。そうならないためにも文章を書く前に読者を正しく想定し、その読者に合わせた文章を書く能力が必要です。そのためにはリード文に入れる情報を取捨選択する力や、それらをわかりやすくシンプルに伝える力が重要になってきます。これらはある程度テクニカルな手法ですから、きちんと教えてあげればできるようになると思っています。

そしてもう一つ大切なのは、「その文章を相手がどう受け取るだろうか」という視点です。クラウドファンディングでは人の「思い」によってものごとが動いていきますから、「自分がこう書いたらみんなはどう受け取るだろうか」という、相手の気持ちをくんだ発言をしなければなりません。これはソーシャルメディア上で発言するときにも重要です。いかに的を射た表現であっても、それによって相手を傷つけたり不快にさせたりするようであれば何の意味もないのです。「思ったことを書く」のではなく「思いを伝えるために書く」という姿勢で文章をつづっていく必要があるのです。特に相手の発言に対して、返信をいかにうまく書くかということが、これからの時代には求められる能力だと思いますね。

構成:香月 啓佑(一般社団法人インターネットユーザー協会[MIAU]事務局長)

著者プロフィール

山本純子(やまもと じゅんこ)

株式会社アーツ・マーケティング代表。1997年慶応義塾大学文学部美学美術史学専攻卒業。大学在学時よりゲーム業界に入り、主にオンラインゲームのマーケティング、調達、事業開発等に従事。

退職後の2009年、慶応義塾大学大学院文学研究科アート・マネジメント分野修士課程に入学。同年末、ITの力で芸術をより広めていくために株式会社アーツ・マーケティングを立ち上げる。2011年修士課程修了後よりクラウドファンディングの研究を始め、慶応義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)を経て、現在は主にクラウドファンディング分野にて企画・コンサルティング・事業開発、および講演・レクチャー等を行う。

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