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リレー連載

ソーシャルメディアの社会学

第8回 ソーシャルメディアと2012年の政治

一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)事務局長 香月啓佑

まもなく2012年が終わろうとしています。「ソーシャルメディアの社会学」第8回では、年末企画として2012年の政治をソーシャルメディアという視点から、特にソーシャルメディアが2012年の政治に与えた影響を、事例とともに振り返っていきます。

政治とソーシャルメディアが接近した2012年

2012年は様々な分野でソーシャルメディアをめぐる動きが起こりました。ソーシャルメディアと社会の関係を考える上で大きな出来事と言えば、政治の世界がソーシャルメディアに接近してきたことでしょう。

「Four more years.」-アメリカ大統領選挙とソーシャルメディア

ツイッター社の分析によると、2012年に世界で一番リツイート(ツイッターでのつぶやきを引き継いで自分のフォロワーに広めること)されたのは、以下のツイートでした。

これは今年行われたアメリカ大統領選挙で、再選がほぼ決まった直後にバラク・オバマ大統領がツイートしたものです。このツイートは2012年一年間に限らず、ツイッター史上、最もリツイートされたものになりました。

オバマ大統領は2008年に初当選しましたが、その時の勝因の一つとしてオバマ陣営による効果的なソーシャルメディア利用が挙げられていました。それまでのアメリカ大統領選挙では、主にテレビCMを中心としたキャンペーンが重視され、各陣営のCMが大量にテレビで放映されていたのですが、2008年の大統領選挙以降、選挙戦キャンペーンのトレンドはテレビからインターネットへと移り始めたのです。そしてその動きが決定的になったのが今年の大統領選挙と言えます。

選挙戦にソーシャルメディアを使うことには多くの利点がありますが、候補者本人あるいは候補者を支援するスタッフが、直接有権者に訴えかけることができるのが、何よりの利点でしょう。テレビCMのようなマスメディアを用いたキャンペーンでも多くの有権者に自分の訴えを届けることができますが、ソーシャルメディアを用いることで、候補者と有権者の間の距離をぐっと縮めることができるようになったのです。

今回の大統領選挙でも、オバマ陣営のソーシャルメディアの利用は巧みなものだったと指摘されています。例えばオバマ大統領のアカウントでは選挙当日も投票に行った人のツイートをリツイートしたり、投票に行くように促すツイートをしたりするなど、最後の最後までソーシャルメディア上での選挙活動を行っていました。選挙当日にオバマ大統領は60回を超えるツイートをしていたのに対し、ロムニー候補は2回しかツイートをしていません。このようなことからもオバマ陣営が戦略的にソーシャルメディアを活用していたことがうかがえます。

また今回の大統領選挙では、有権者自身が情報の発信者になったことも特徴として挙げられます。通常はソーシャルメディア上で自分の政治観などを話すのは憚(はばか)られるものですが、今回の大統領選挙では選挙前や選挙当日に多くの人が自分の政治観をソーシャルメディア上で表明し、議論が行われていました。特に選挙当日は自分が投票したことをソーシャルメディア上で表明する数多くの書き込みがあったのです。今回はソーシャルメディアが市民にとっても一般的になってから初の大統領選挙であり、今後は候補者の情報発信だけでなく、有権者がソーシャルメディア上で発信する情報にも注目していく必要があります。

ただし、選挙活動でのソーシャルメディアの度を越える利用に警鐘を鳴らす声も挙がっています。ニューヨーク・タイムズの記事によると、激戦区と言われるオハイオ州のある労働組合は、選挙活動に協力している組合員のフェイスブックのプロフィール情報と有権者名簿を付きあわせて、その組合員とフェイスブック上で友達関係にある有権者に支持を求める電話をするように促すシステムをウェブサイト上に構築しました。票を効率的に掘り起こすために、無闇に電話をかけるのではなくフェイスブック上での友人関係を利用したのです。今後はこうした個人情報やプライバシーの保護が重要な話題になりそうです。

今回の選挙とは直接関係ありませんが、このような問題を考える上では本連載第4回「ソーシャルメディアとプライバシー」を併せてお読みいただくと理解が深まると思います。

データの分析が選挙を動かす

オバマ大統領の勝因として、もうひとつ挙げられているのが、「データの分析」です。

これまでは、選挙に長く関わってきたプロの経験や勘によって選挙戦略が立てられてきました。しかし今回オバマ陣営はそれに加えて、データ解析チームを編成し、データの分析によって選挙戦略を立てて、効果的な選挙活動を行ったのです。タイムの記事によれば、オバマ陣営は本拠地に「The Cave」と呼ばれるデータ分析のための部屋を設け、ソーシャルメディア上の動きや有権者の趣味嗜好、選挙情勢を分析し、毎晩6万6000回の投票シミュレーションを行っていたとのことです。この結果を元に演説会に呼ぶゲストを決めたり、リソースの配分を決定したりと、効果的な選挙戦略を立てたのです。

またネイト・シルバーという選挙予想専門家が、彼の開発した「538モデル」(大統領選挙人の総数が538人であることからそう名付けられた)と呼ばれる数学的手法を用いて今回の大統領選挙の結果を予想し、ピタリと的中させことが話題となりました。「538モデル」では、従来の政治評論家が用いてきたような取材や推論による分析ではなく、男女比や過去の世論調査の結果といった多種多様な、そして巨大な量のデータ(ビッグデータ)を用いて分析を行ったのです。

このように今後は今まで思いもよらなかったような領域で、データが活用される事例が多く出てくるでしょう。日本でもすでにデータを用いた報道(データジャーナリズム)が始まっています。今回の衆議院選挙では朝日新聞がツイッターへの書き込みを利用し、選挙の争点について分析を行いました。
ビリオメディア(朝日新聞デジタル)
自民は終始白熱 民主は批判が大半 衆院選つぶやき分析 - 政治(朝日新聞デジタル)

データジャーナリズムは今後ますます盛んになっていくと思われます。データジャーナリズムについては本連載第3回「ソーシャルメディアとジャーナリズムの関わり」で取り上げましたので、併せてお読みください。

日本でもソーシャルメディアと政治は結びつくか

ではここで視点を日本に移してみましょう。2012年に日本ではソーシャルメディアが政治にどのような影響を与えたのでしょうか。

まずソーシャルメディアを政治が活用した例として、行政刷新会議による「新仕分け」を挙げることができます。

民主党政権の目玉として行われた事業仕分け。これまで5回の事業仕分けが開催されました。過去の事業仕分けではニコニコ生中継やユーストリームによるインターネット生中継が行われ、多くの国民が仕分けの模様をリアルタイムに視聴し、ソーシャルメディアを用いて議論を行うことができました。2012年11月16日から18日に開催された「新仕分け」では、それに加えて、ニコニコ生中継に寄せられるコメントやツイッターでの発言を表示するモニターが仕分け会場に設置され、国民の声をリアルタイムに反映しながら仕分け作業が行われたのです。さらにコメントやツイッターでの発言は適宜仕分け会場で紹介され、仕分け人ができなかったような鋭い指摘がなされる場面もありました。

今回の衆議院選挙によって政権が自民党に移り、事業仕分けが今後も継続されるかどうかは不明ですが、こうした前例がある以上、ソーシャルメディアを用いて国民が政策決定に携われるような仕組みは引き続き求められるに違いありません。

行政がソーシャルメディアを用いて情報を発信し始めたことも今年目立った特徴と言えます。衆議院選挙と同時に行われた東京都知事選挙で当選した猪瀬直樹知事は、就任直後に都の全ての局にツイッターアカウントの開設を指示しました。
東京都のTwitter公式アカウント一覧(東京都)

また多くの政治家がツイッターやフェイスブックのアカウントを持ち、情報発信を始めています。政治家がソーシャルメディア上で発信した情報が他のメディアでも話題になるようになりました。
安倍晋三総裁、Facebookにカレー写真を投稿「例のカツカレーです」(はてなブックマークニュース)

ソーシャルメディアやデータを用いた社会参加については、本連載第6回「ソーシャルメディアと政治の関わり」で取り上げましたので、こちらも併せてお読みください。

インターネットを用いた選挙解禁に向けて

冒頭でご紹介したように、アメリカを始めとした海外ではインターネットを用いた選挙活動(ネット選挙)が当たり前のように行われています。先日の韓国大統領選挙でもソーシャルメディアの活用が鍵を握ったと言われています。
韓国大統領選挙「勝敗の鍵を握るソーシャルメディア」(NHK 海外ネットワーク)

しかし日本では公職選挙法によってネット選挙は禁止されており、選挙期間中はソーシャルメディアやブログ、公式サイトの更新を行うことができないのが現状です。日本でもこれまで数回ネット選挙解禁に向けて自民党や民主党から公職選挙法の改正案が提出されてきましたが、政局の混乱などもあって、成立していません。しかし今回の衆議院選挙では日本維新の会代表代行の橋下徹大阪市長が告示期間中にツイッターを更新し続けたことが話題になるなど、ネット選挙解禁に向けた動きは確実に大きくなっています。それを受けてか、次の政権を担うであろう安倍自民党総裁が、来年夏の参議院選挙でのネット選挙解禁に向けて検討を始める考えを示した、という報道がなされました。
安倍氏“ネット選挙解禁を”(NHKニュース)

ソーシャルメディアと政治の関わりを考える上でも、ネット選挙解禁に向けた公職選挙法改正の流れ、そして来年夏の参議院選挙は注目していきたいと思います。

著者プロフィール

香月啓佑(かつき けいすけ)

一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)事務局長。有限会社ネオローグ編集部。1983年福岡県北九州市生まれ。九州大学芸術工学部音響設計学科卒業。音響機器メーカー勤務を経て現職。

MIAU事務局長として、インターネットやデジタル機器等の技術発展や利用者の利便性に関わる分野における、意見の表明・知識の普及などの活動を行う。ネオローグではインターネットに関係する記事の執筆や電子書籍のオーサリング、インターネット放送やラジオ番組の構成やインターネット生中継のコーディネートを担当している。

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