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リレー連載

ソーシャルメディアの社会学

第6回 ソーシャルメディアと政治の関わり
庄司昌彦インタビュー

「ソーシャルメディアの社会学」第6回では、ソーシャルメディアと政治の関わりを取り上げます。今や多くの議員がソーシャルメディアのアカウントを持ち、住民とのコミュニケーションをソーシャルメディア上で取ることが当たり前になりつつあります。しかしそれだけがソーシャルメディアと政治の関わりではありません。今後の社会ではソーシャルメディアは政治とどのような関わりを持つようになるのでしょうか。今回はネットと政治・行政の関わりを研究し、その実践について広く提言を行なっている国際大学GLOCOMの主任研究員で、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)理事の庄司昌彦さんにお話を伺いました。

ソーシャルメディアが政治と結びついたきっかけ

社会に広がっていく中で、ソーシャルメディアは政治の世界にも影響を与えました。これには近年では2回のターニングポイントがあったと考えています。

まずひとつめのポイントは2009年です。日本においては2009年がツイッター元年だと言われています。ツイッターがテレビなどで取り上げられるようになり、日本でもぐっとユーザーが増えました。そして2009年には政治上で非常に重要な出来事が起きています。それは自民党から民主党への政権交代です。民主党へ政権が移ったことによる象徴的な出来事というのはいくつかありますが、ソーシャルメディアと政治ということを考える上では「事業仕分け」が非常に象徴的な出来事だということができるでしょう。

事業仕分けが大きなターニングポイント

事業仕分けではその一部始終がユーストリームやニコニコ生放送などのインターネット生中継を用いて配信されました。インターネット生中継では動画を見るだけではなく、そこで議論されている内容についてコメントを投稿し、ネット上で議論をすることができます。事業仕分けといえば、蓮舫議員の「2位じゃだめなんでしょうか」という発言で非常に話題になったスーパーコンピューターや科学技術予算の議論があります。蓮舫議員の発言はテレビや新聞でそこばかりが繰り返し放送されましたが、ネット上では、議論の文字起こしが行われたり、独自の分析が行われたり、予算の妥当性を検証するまとめサイトが作られたりもしました。政治の議論でここまでのことが行われたのは画期的なことだったと思います。そもそも2009年以前のソーシャルメディアは、世の中の重要なことにはあまり関わらない、趣味性が高い存在でした。しかしこれ以降、ソーシャルメディア上で公(おおやけ)に関わることについて意見を発信したり、議論を戦わせたりすることが明らかに増えたのです。この流れはインターネット生中継サービスにも影響を与えました。それまではカルチャー寄りの話題を取り上げることが多かったニコニコ生放送が、政治や経済といった硬派な内容の番組をどんどん組み、多くの視聴者を得るようになったのです。

またツイッター議員と呼ばれる議員が出てきたのも2009年の総選挙のときです。民主党の逢坂誠二議員が、2009年の政権交代選挙の際、開票開始直後に「当選確実なう」とつぶやいたことや、鳩山首相がツイッターアカウントを開設したのもニュースになりました。また国際的な観点から考えると、2009年にはアメリカでオバマ政権が誕生し、重要政策のひとつとしてオープンガバメント(インターネットを活用した開かれた政府の構築)が提唱されるようになりました。

東日本大震災をきっかけに当事者性が生まれた

そしてもうひとつのターニングポイントは2011年3月11日。東日本大震災を受けて、ソーシャルメディアと政治の関わりも大きく変化しました。

東日本大震災前のソーシャルメディアを用いた政治参加は、ある種「擬似参加」ということができます。ソーシャルメディアを用いて政治について意見を述べたり、議員の発言を聞いたりすることによって、政治は確かに身近なものになりました。しかしそれは実際のところバーチャルなものであり、主体的な参加には程遠かったと思います。「政治家とコミュニケーションし、彼らになんとかしてもらおう」というスタンスでの政治参加と言ってもいいかもしれません。

しかし東日本大震災のあとは「政治家になんとかしてもらおう」というスタンスではなく、自分たちで何が真実かを見出したり、自分たちで情報を必要な人に早く届けたり、行動に結びつけたりする動きが数多く出てきています。ソーシャルメディアを舞台に、より当事者性や当事者意識が強まったコラボレーションが行われ、そのコラボレーションの中に政治家や行政も巻き込まれ始めています。

例として東京都が行った大型ヘリでの救助活動があります。東京都の猪瀬直樹副知事のもとに、気仙沼の公民館に取り残された障害児たちを救助するように伝えるつぶやきが送られました。それを受けて東京都は29人乗りの大型ヘリを出動させ、障害児たちを救助することに成功したのです。またその他の救助要請のつぶやきについても東京都から現地に情報を伝え、救助を要請しました。

また従来であれば行政の仕事だったような情報の収集や整理、発信も、ソーシャルメディアを介してコミュニケーションする人々によって自発的に、民間レベルで進められました。グーグルが提供した安否確認システム「Google パーソンファインダー」や、避難所の位置を地図上にマッピングしていく「sinsai.info」などが代表例です。また東京電力が節電を呼びかけるために電力使用状況のデータを出すようになり、そのデータを用いて様々な節電に向けてのアプリケーションが自発的に作成され、公開されました。現地から発せられる情報を民間が整理し、それを見た市民が政治家や行政にはたらきかけ、実際に行政が動いた、あるいは民間で自発的にプロジェクトを起こし当事者として課題に取り組んだという例はたくさんあります。確かにデマの問題や被災地の電力状況から、特に被災直後はソーシャルメディアが役立たなかったという意見もありますが、しかしこのような形で実際に行動を起こした人たちがいて、行政や政治家が動いたりしたことも事実です。

ソーシャルメディアが変えた「社会運動」

またソーシャルメディアを用いた社会運動が目立ったのも2011年でした。日本では毎週金曜日に首相官邸前で行われている反原発デモが例として挙げられます。それまではデモに一般の人が参加することはあまりありませんでした。しかし反原発デモは今までデモに参加し得なかったような人たちを巻き込み、近年にない人数を集めています。国際的に見ればその動きはさらに明確で、「アラブの春」や「オキュパイ・ムーブメント」といった社会運動が国際展開していった背景にはソーシャルメディアを活用・駆使する人達がいました。ソーシャルメディアが情報をより多くの人に早く届けるツールとしてだけではなく、人間の心理的・感情的なものを動かすツールとしても作用していると考えることができます。

※オキュパイ・ムーブメント:2011年9月にニューヨークにあるウォール街に数千人が集結し、反格差・反貧困を主張したデモや座り込みが行われ、このデモや座り込みは2ヶ月以上にも及んだ。ウォール街は世界的な金融街であり、そのウォール街をデモ隊が占拠したことから、この運動は「オキュパイ・ウォールストリート(ウォール街を占拠せよ)」と呼ばれた。オキュパイ・ムーブメントは「オキュパイ・ウォールストリート」を受け、同様の運動が世界的に広がっていったことを指す。

「オープンデータ」が新たな政治参加への鍵

先ほど東京電力の電力使用状況データの例を出しましたが、企業だけでなく行政が持っているデータをもっと活用して世の中を動かしていこうという動きも世界中で起きています。このような動きは「オープンデータ」と呼ばれています。政府が持っているデータは国民の財産です。オープンデータとは、そのようなデータをだれでも使える形で公開して、そのデータを用いて生活をよりよいものにしていくために使っていこうという考え方です。オープンデータのひとつの利用法として、この連載でも取り上げたデータジャーナリズムがあります。データを駆使して世の中の問題を分析するという手法ですね。

ここでオープンデータの実現例を見てみましょう。

data.gov.uk
イギリス政府の政府機関のデータ公開サイトです。政府が持っている膨大なデータが一元的に公開され、容易に検索することができます。自分が知りたい地域の情報を地図上で選択すると、その地区の犯罪率や洪水の危険性マップ、水の酸性度、その地域の昔の写真などあらゆる情報を検索でき、ここから様々なアプリケーションが生み出されています。

You Choose
イギリスのレッドブリッジ・ロンドン特別区の職員が作ったサイトです。このサイトでは政府が掲げた予算案について、市民が自分でその予算を組み替えるシミュレーションができます。予算配分を組み替えることでどういった利点や悪影響があるかがリアルタイムに示され、予算のバランスについて市民自身が考えることができます。

データシティ鯖江
福井県鯖江市は"データシティ鯖江"を掲げ、オープンデータを進めています。人口や気温などのデータだけではなく、公共施設などのトイレに関する情報やAED(自動体外式除細動器)の位置などがコンピュータ処理に向いたXMLやRDFという形式で公開されています。

またオープンデータについて解説している動画もあります。話者はティム・バーナーズ=リー。インターネットを支えるドキュメントシステム「WWW」(World Wide Web)の開発者として知られ、ロンドンオリンピックの開会式にも登場した人です。英語の講演ですが日本語字幕もついています。
・「オープンデータとマッシュアップで変わる世界」(TED.com)

オープンデータをより知るためには、イギリスに拠点を置くオープンデータの推進団体「Open Knowledge Foundation」が作った「Open Data Handbook」を一読することもおすすめです。日本語にも翻訳されています(http://opendatahandbook.org/ja/)ので、興味がある方はぜひ読んでみてください。

「オープンデータ」の波は日本へも

オープンデータへの動きはもちろん日本にも広がってきています。日本では2012年7月に「電子行政オープンデータ戦略」が示され、本格的に政府のデータを公開していくことになりました。私も政府のIT戦略本部にある「電子行政に関するタスクフォース」の一員として、この戦略の策定に関わりました。

このオープンデータ戦略には3つの目標が掲げられています。まずは「透明性・信頼性の向上」です。行政のデータを公開していくことで、行政への信頼を高めていこうとしています。次が「国民参加・官民協働の推進」。行政が主導するのではなく、国民と行政が一緒になって課題にトライしていこうということです。節電を例に取れば、電力使用状況のデータをコンピュータで処理しやすい形式で出すことによって、民間が自発的に節電のためのアプリケーションを作るなどして、国民も行政も一緒に節電に取り組んでいくようなことなどが想定されています。そして最後が「経済の活性化・行政の効率化」です。今まで使われてこなかったデータを有効活用し、別のデータと組み合わせて分析することによって新たな価値を生み出し、経済の活性化や行政の効率化を図ろうとしています。かなり踏み込んだ内容の戦略を掲げています(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/pdf/120704_siryou2.pdf ※PDFファイル)ので、今後の日本でのオープンデータへの動きにぜひ注目してください。

「データ」がコミュニケーションの新たな媒介に

人口減少時代に入り、限られた予算の中で政治・行政を進めていかざるを得ない現代において、みんなが平等にメリットを享受する社会を構築することは残念ながら難しくなってしまいました。そのような社会の中では限りある予算や資源を本当に必要なところに、効率的に投入しなければなりません。つまり予算を投入する場合には何が優先度の高い問題かということを、事実や数字をもとに明らかにしていく必要があるのです。問題解決に取り組む上で感情や感覚、しがらみなどによって判断を下してしまうことはしばしばありますが、今後は問題解決のためのコミュニケーションの媒介として、データの重要性が高まるでしょう。ここでいう問題解決は大きな問題に限りません。「僕たちの地域はどうしていこうか」「この学校をどうしていこうか」といった地域に根づいた課題に対しても、データに基づいた議論は役立ちます。

大きな社会運動や政府の動きをご紹介しましたが、身近なところで社会を変えていくためのツールとして、オープンデータなりソーシャルメディアなりといったものをどんどん自発的に使って、身近な問題を当事者として解決していくことが、これからのソーシャルメディアと政治の関わり方ではないかと思います。

ネットでのコミュニケーションにおいて必要な国語リテラシー

現場レベルの政治を動かすにあたって、近年では、対面でのコミュニケーションはもちろん、ネット上のコミュニケーションも駆使して議論を深めていくようなことが求められます。ソーシャルメディアを介して知らない人同士が会って、コラボレーションしながら問題を解決していくといったことは、すでに現実に行われ始めていますし、今後その機会はもっと増えていくでしょう。そのような環境では、言葉で話すにしろ、テキストで話すにしろ、コミュニケーションが現場レベルの政治を動かすキーになってきます。

今後の国語教育を考えていく上では、長い文章を味わい読解することももちろん重要ですが、それと同じくらい、コミュニケーションを通して他者とのコラボレーションをいかにうまくやっていくかということも国語力として重視されることになるでしょう。

例えば、議論をする上で主張や反論のしかたは非常に重要ですが、議論を会話によって行うときと、文字によって行うときでは多少やりかたを変えなければならない場合があります。特にテキストによるコミュニケーションは自分が思った以上の強さで伝わってしまうことがありますが、相手の反応を見てその場でフィードバックすることができないため、表現に注意する必要があります。

また同じテキストでのコミュニケーションでも、ブログのような長文を書ける環境でのコミュニケーションと、ツイッターのように文字数が制限されている環境でのコミュニケーションはおのずと違ってきます。特に論理構造を伝えにくいツイッターでは、発言の一部だけが切り取られて、自分の文意とは全く違った文脈で拡散してしまうことがよくあります。そのような特性を踏まえた上で、プラットフォームごとにコミュニケーションの方法を使い分けていく必要があるのです。

このようなコミュニケーションのリテラシーは私たち大人もこれまで学校で学んだわけではなく、今後も試行錯誤を続けながら学んでいかなければならないものです。その上で社会が協力しあい、今後どういうコミュニケーションのリテラシーが必要なのか、どういうスキルを学校という場で教えていくべきかを考え、教育の中で実践していくことが非常に重要になると思います。そのときコミュニケーションをより実のあるものにするための手段として、データとその分析が大切になってくるのではないか、と考えています。

取材・構成:香月 啓佑(一般社団法人インターネットユーザー協会[MIAU]事務局長)

著者プロフィール

庄司 昌彦(しょうじ まさひこ)

Twitter: @mshouji

国際大学 グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)講師/主任研究員。1976年、東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科修士課程修了。おもな関心は情報社会学、電子行政、地域情報化、ネットコミュニティ、社会イノベーションなど。近年は政治とネット、オープンガバメントの調査研究にも従事。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)理事、NPO法人政策過程研究機構理事、Open Knowledge Foundation日本グループメンバーなども務めている。

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