WEB国語教室

リレー連載

ソーシャルメディアの社会学

第5回 ソーシャルメディアと電子書籍の関わり
西田宗千佳インタビュー

「ソーシャルメディアの社会学」第5回では、ソーシャルメディアと電子書籍の関わりを取り上げます。ソーシャルメディアの登場で電子書籍の読み方はどう変わったのか、そしてその変化に対応するためにはどのような読書教育が必要になってくるのか。また話題の電子書籍端末をどのような視点で選べばよいのか。電子書籍の動向を追いかけ続けているフリージャーナリストの西田宗千佳さんにお話を伺いました。

ようやく身近になってきた電子書籍

日本では2010年が電子書籍元年と言われています。これはソニーの電子書籍端末「Reader」やアップルのタブレット「iPad」が発売になり、電子書籍を読む環境が整いはじめたからです。そしてその電子書籍元年から2年が経過し、電子書籍端末もソニー「Reader」に加えて、シャープ「GALAPAGOS」、楽天「kobo Touch」などが出そろいました。またアマゾン「Kindle」の日本上陸も間近ではないか、と言われています。さらに電子書籍は専用端末だけでなく、タブレットPCやスマートフォンでも読むことができます。アップル「iPad」はすでに3代目が発売されましたし、先日のアップル「iPhone5」の発売は大きな話題になりました。私は電子書籍の動向をジャーナリストとしてずっと追いかけてきましたが、日本でも電子書籍がだんだんと身近なものになってきたな、と最近ようやく感じるようになりました。この電子書籍の普及にはソーシャルメディアが一役買っていると私は考えています。

ソーシャルメディアは「本との出会い方」を変えた

電子書籍がソーシャルメディアと交わることで起きた変化のひとつに「本との出会い方」があります。

ソーシャルメディアが普及するまでの本との出会いは、電車の吊り広告などのマス広告で知るか、書店で平積みされているのを見るかくらいしかありませんでした。この状態では、マス広告を打ってもらえる有名な本はどんどん売れますが、広告を打ってもらえないマイナーな本は、どんなに内容が素晴らしくても話題になりにくく、情報が届いてほしい人になかなか届きません。何らかの方法で本の存在を知ったとしても、ちょっとタイミングを逃すとすでに絶版、なんてことはままあるわけです。しかしソーシャルメディアが普及して、自分の興味のある話題や人をソーシャルメディア上でフォローするようになり、自分の興味のある本をソーシャルメディアで知ることができるようになっています。読者は自分の興味に合った本の情報を逃すことが少なくなりましたし、著者や出版社は確実に情報を届けやすくなりました。

私の実例を紹介しましょう。私はこの4月に『スマートテレビ スマートフォン、タブレットの次の戦場』(アスキー・メディアワークス)という新書を出版したのですが、この本は電子書籍版も作成して、角川グループの電子書籍ストア「BOOK☆WALKER」でも買うことができるようにしました。「BOOK☆WALKER」では様々な本を扱っていますが、主な売れ筋はライトノベルやコミックです。ですからジャーナリスティックな話題の新刊は、なかなかストアのトップページでは目立ちません。しかし『スマートテレビ』は、あることがきっかけで「BOOK☆WALKER」の新書ランキングで1位をとることができました。そのきっかけとは、ツイッターで販売ページのリンクを付けて「電子書籍版ができました」とツイートしたことです。ツイッターの僕のフォロワーには、日ごろから僕が記事や本にしているようなテーマを追いかけている人が多いはずです。そのような人たちに僕から「BOOK☆WALKERで売っていますよ」と直接お知らせすることで、本の情報を確実に届けることができました。その結果、本の売上につなげることができたわけです。

「本の感想」がソーシャルメディアで共有される

また電子書籍がソーシャルメディアと交わることで「本の読み方」に新たな方法が生まれました。本の感想や重要だと感じたところを、読者それぞれがソーシャルメディア上に記し、共有するという方法です。これは「ソーシャルリーディング」と呼ばれています。

日本の大学生は新学期に新しい教科書を買いますが、アメリカの大学生はわざと中古の教科書を購入するという話があります。理由としては教科書が高いというのもありますが、中古の紙の教科書には前に使った人のメモやアンダーラインなどの痕跡が残っていて、重要なポイントがどこなのかがなんとなく分かるという利点があるからだそうです。「ソーシャルリーディング」は、この教科書のメモやアンダーラインのようなことをソーシャルメディア上で行うものだと考えればよいでしょう。

ソーシャルリーディングは全ての本に役立つとは言えません。例えば頭から最後まで順に読まないといけないような小説などには向いていないと思います。推理小説を読もうと思って電子書籍を開き、1ページ目に犯人の名前がソーシャルリーディングで記されていたとしたら……興ざめどころの話ではありませんよね(笑)。しかしビジネス書を読むときに、ソーシャルリーディングでマーキングしてあるところを手がかりにつまみ読みすれば、効果的に速読をすることができます。まだ読んだことのない分厚い学術書のなかから、自分が必要としているところを読みたいときにも、ソーシャルリーディングで誰かが整理したポイントを活用することで、必要なところをとらえるだけでなく、自分では見過ごしがちな視点を取り込んで、内容を的確に把握しやすくなります。新たな発見をもたらすソーシャルリーディングが、「積ん読」で積み上がってしまった本を開くきっかけになるかもしれません。

ソーシャルリーディング時代の「読書感想文」

インターネットが普及する前は、自分が読みたい本の概要や読者の感想を知るには、新聞や雑誌の書評、あるいは口コミに頼るほかありませんでした。しかし新聞や雑誌の書評で取り上げられてもスペースや内容に制限がありますし、その書評を探し出すこと自体に手間がかかります。また口コミでは身近な人のざっくばらんな感想を聞くことができますが、身近な人が自分の読みたい本を読んでいるとは限りません。

ところがインターネットの普及によって、ブログやソーシャルメディアを用いて、本の感想が広く共有されるようになりました。先ほど紹介したソーシャルリーディングはその良い例ですし、また書評を専門に扱うブログはたくさんあります。人気の書評ブログのなかには、紹介した本の広告収入だけでかなり稼ぎを得ているものもあるようです。このように現代では本の感想に触れる機会が圧倒的に増え、また本の感想を書く機会が増えました。

サイトで本の感想を共有することも、ソーシャルリーディングと呼ぶことができます。すでに日本でも、いくつかソーシャルリーディングを体験できるウェブサービスがあります[1]。自分が読んだことのある本の感想が、どのように書かれ、どのように共有されているのか、実際に体験してみることをおすすめします。

専用のサイトを用いるものだけがソーシャルリーディングではありません。アマゾンなどの書籍通販サイトに書き込まれるレビューもソーシャルリーディングの一部ですし、フェイスブックのファンページやツイッターのハッシュタグでまとめられた感想の塊たちも、ソーシャルリーディングということができます。

こうして広く本の感想が共有される時代ですから、学校における読書教育にもそろそろ変化があってよいのではないかと考えています。特に読書感想文のありかたについて一度見なおしてみてはどうでしょうか。今までの読書感想文といえば「この本を読んで、原稿用紙2枚で感想を書きなさい」という形式が多かったと思います。ただこれでは漠然としていて、あらすじや内容の紹介もなくただ主観的に「私はこう思いました」と書く、閉じた文章がどうしても多くなってしまいます。しかしそのような感想文からでは、他人がその文章を頼りに本の内容や魅力を知ることができません。

ですから、これからの読書感想文は、書き手個人の感想よりも、「その本が取り上げている題材についてあなたはどう考えるに至ったか」という過程に主眼を置くべきだと考えています 。ソーシャルリーディングなどで本の感想が共有されるときは、多くの感想が書き込まれるので、「その感想を誰が書いたのか」という属人性は薄まります。こうした場合には、「なぜそう考えたのか」「どうやってその感想に至ったのか」という理由や過程が、その感想を特徴づけ、読み手を引きつける重要な要素になります。ソーシャルリーディングにおいても、「どのような題材に注目しどのように感想を述べているか」に着目することで、そういった「思考の過程に内在する価値」を知ることができます。思考の過程がソリッドでクリアな感想は、そのまま対象となった本の特徴や面白さを引き出すことができるのです。そういった点を考えると、これから読書感想文を書く指導をする際は、文章の量にこだわるより、題材と感想を整理し、ソリッドに自分の思考の流れを伝える方法を指導することに注力したほうが効果的だと考えています。今や我々の日常となりつつあるソーシャルメディア上での情報発信においても、同じことが求められているのです。

電子書籍の決め手は電子書籍ストア

電子書籍がだんだん普及するなかで「電子書籍を読んでみたいけど、どの端末を買えばいいのだろう?」「電子書籍を読むには、スマートフォンと専用端末のどっちが適しているのだろう?」と悩んでいる方も多いようです。

電子書籍をどうやって読むかということを考えるとき、どうしてもまずハードウェアのことを考えてしまいがちです。しかし私は電子書籍端末よりも、その端末が対応している電子書籍ストアこそが重要だと思っています。電子書籍ストアを魅力的にするための手段として専用端末があると言ってもよいかもしれません。なぜならどんなにハードウェアとして魅力的な端末があったとしても、その端末で自分の読みたい本が読めなければ意味がないからです。電子書籍を楽しむ上では「どの端末で読むか」も大切ですが、それ以上に「どんな本を読みたいのか」を考えて、自分の望む読書体験に合った電子書籍ストアを探すことが大切です。

書店に行って紙の本を買うときのことを考えてみましょう。買いたい本が明確に決まっている場合は別ですが、「こんな本がほしい」と漠然と考えて書店に行くときには、書店内の該当のコーナーに行って、陳列やポップなどを手がかりに本を選びます。そしてレジに行って支払いをしますよね。このとき書店によっては、現金や図書券だけではなく、クレジットカードやデビットカードなどから支払い方法を選ぶことができます。この一連の流れからよい書店の条件を考えると「品ぞろえが良い」「知らない本の情報を教えてくれる」「支払い方法が簡単・多様」といったところを挙げることができますが、電子書籍ストアにもこれとまったく同じことが言えるのです。

電子書籍ストアも、ストアによって品ぞろえに差がありますし、また扱うジャンルの得意不得意もあります。また書店における企画陳列のように、電子書籍ストア上でも特集企画が組まれることがあります。そのストアで過去にどんな企画が開催されていたか、そしてその企画でどんな本が紹介されていたかを見てみるとよいでしょう。そしてもちろん支払い方法も大切です。たいていのストアはクレジットカード決済に対応していますが、クレジットカードを持っていない場合は、そのストアが電子マネーや携帯電話キャリア決済など、クレジットカード以外の決済に対応しているかを確認してみましょう。以上のような観点から自分に合った電子書籍ストアを探し、その上でそのストアに対応した端末のなかから自分に合ったものを選ぶことを私はおすすめします。

また電子書籍ストアを選ぶ指標として、「品ぞろえの良さ」などのほかに、もうひとつ電子書籍ならではの指標があります。それは「クラウド書庫に対応しているか」ということです。先ほども述べたとおり、今や電子書籍を読む方法はたくさんあります。専用端末で読んでもいいし、スマートフォンやタブレットPCで読んでもいい。もちろんPCで電子書籍を読みたいときもあるでしょう。そんなときに逐一データを端末間で移動させるのは面倒ですよね。また電子書籍端末が壊れたり、データが消えてしまったりする可能性もあります。クラウド書庫に対応したストアであれば、ネットワーク経由で自分がそのとき読みたいデバイスで読むことができますし、データが消えてしまったとしても再度ダウンロードをし直すこともできます。また今読んでいるページをデバイス間で同期してくれますから、どこを読んでいたかページをめくって探す必要もありません。せっかく電子書籍で本を読むのですから、電子書籍ならではの利点を活かした本の読み方ができる電子書籍ストアを選ぶことをおすすめします[2]

電子書籍端末をハードウェアの面から選ぶ上でも「どんな本を読みたいのか」ということが重要になります。電子書籍専用端末の一番の特徴として、パネルに「E Ink」という電子ペーパーを採用していることが挙げられます。電子ペーパーはバックライトの光で画面を見せる液晶と違い、紙と同様、外光の反射で表示を行います。ですから、液晶よりもずっと目が疲れにくく、小説や文芸作品を読むには最適です。そのため特に、愛書家向けを公言している端末での利用例が多く、日本ではソニーの「Reader」や楽天の「kobo Touch」が採用しているほか、アマゾンの「Kindle」も、電子書籍専用のモデルでは電子ペーパーを採用しています。しかし電子ペーパーは最近のスマートフォンやタブレットPCのパネルに比べると解像度が劣ります。絵を中心にした細かく、微妙な表現にはあまり向いていませんし、まだカラーにも対応していません。特に漫画はトーンを用いて細かな線やグラデーションを用いた表現をしますから、そういった漫画家の細かいこだわりを楽しみたい方は、電子書籍専用端末ではなくスマートフォンやタブレットPCを選ぶべきでしょう。

取材・構成:香月 啓佑(一般社団法人インターネットユーザー協会[MIAU]事務局長)

著者プロフィール

西田 宗千佳(にしだ むねちか)

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。

得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。

朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、アエラ、週刊朝日、週刊現代、週刊東洋経済、月刊宝島、ベストギア、DIME、日経トレンディ、 PCfan、YOMIURI PC、AV Watch、ASCII.jp、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

電子書籍に関する著書に『電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ』(エンターブレイン)、『リアルタイムレポート・デジタル教科書のゆくえ』(TAC出版)がある。近著には『漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち』(講談社)、『スマートテレビ スマートフォン、タブレットの次の戦場』(アスキー・メディアワークス)がある。

個人媒体としてはEPUBマガジン「西田宗千佳のRandom Analysis」で書き下ろしルポを配信中。

《注》

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