WEB国語教室

リレー連載

ソーシャルメディアの社会学

第4回 ソーシャルメディアとプライバシー
鈴木正朝インタビュー

「ソーシャルメディアの社会学」第4回では、ソーシャルメディアとプライバシーを取り上げます。ネットワーク社会となったことでプライバシーの権利や個人情報の保護に対する人々の考え方、受け止め方もだいぶ変化してきたように思います。特にここ数年のソーシャルメディアの隆盛によって、個人の情報の使われ方は大変複雑で巧妙になり、いったいいつどこで取得され、どのように使われているのかもよくわからなくなってきました。利用者自身はこうした事態にどう向き合っていくべきなのでしょうか。今回はソーシャルメディア、そしてインターネットを利用する上で、どのようにプライバシー・個人情報保護教育を行うべきか、法学者で新潟大学法科大学院教授の鈴木正朝先生にうかがいました。

実社会の動きから理解する

ソーシャルメディアは、その単語自身の一部にあるように、ソーシャル、つまり社会との関わりの中で考える必要があります。ソーシャルメディアに限らずインターネット全般に言えることですが、そこでの出来事はネットの中だけに閉じているのではなく、それを操作し、または企画運営している生身の人を介して実社会とつながっています。ですからソーシャルメディアのことを考えるときは、ソーシャルメディアやインターネットの中のデータの動きだけを把握するのではなく、常にその背景にある現実社会の動きも合わせてウォッチしながら理解していく必要があります。

個人情報・プライバシー保護問題と社会の関わり

ソーシャルメディアやインターネットの利用で直面する昨今のプライバシー問題には、広告やポイント制が絡むことが増えてきたように思います。これはソーシャルメディア等インターネット上の無償サービスの多くが広告モデルによって成立していることと無縁ではないでしょう。

プライバシーや個人情報の保護の問題を生徒に教えるときに、法律でこれはしてはならないと決まっているのだと「べからず集」的に結論だけを見せていくやり方はあまり効果的ではないと思います。おとなしい子は忘れてしまうでしょうし、活発な子は、単純な禁止事項は「俺にやれといっているのか」とチャレンジングに受け止めるでしょう(笑)。中学2年生くらいになると「ゼロ・プライバシーの時代だぜ」とうそぶく知恵もついてきます。やはり、なぜ問題があるのか、社会の仕組みと自分、個人と社会との関わりの中で考えていかなければならないと思います。

例えば、いま広告業界がどのようになっているのかなど、社会の仕組みを知ることによって、プライバシーと個人情報の保護についての理解が深まりますし、なにより興味を持ってもらえるのではないでしょうか。

映画『ALWAYS 三丁目の夕日』で描かれたような日本が高度経済成長に向かっていく時代は、みなが経済的な豊かさを求めて頑張っていました。白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫、そして、カラーテレビ、クーラー、車を各家庭が揃えていきました。国が経済成長をし、国民の所得が増えていく中で、国民の欲しいモノ、娯楽等は共通するところが大きかったのです。購買層がいわゆる「一億総中流」と言われた頃には、広告を出す方にとっても一つの大きなターゲットがそこに存在していました。つまりマスを相手にテレビのゴールデンタイムの番組や新聞に広告を出せば良かったのです。「マス広告」が非常に有効だった時代です。

しかし、今やその一億総中流社会という前提は崩れています。社会が地層のように階層化して固定化する気配も感じます。また、趣味や嗜好等ライフスタイルも多様化していわば縦方向にも分化している。1枚の板がマトリックス上に分かれるというのでしょうか、大陸が群島上になったと比喩すべきでしょうか、ある同じ嗜好、属性を持った人たちの集まり、クラスタにいくつも分かれてしまった。

たぶんマス広告では彼らを振り向かせることはできません。みんなを対象にしたものは誰にとってもピントがずれているのかもしれません。そこでそれぞれのクラスタの存在と性質を見極め、それに合わせて効果的に広告を届けるための手法が求められるようになってきました。消費者の行動履歴を分析することでその消費者の趣味嗜好や興味関心を推測し、その消費者に最適と思われる広告を配信する手法、行動ターゲティング広告の登場とその後の進化は、ネット社会の到来を含むこうした背景と情報技術の応用ではじまりました。

行動ターゲティング広告とプライバシー

行動ターゲティング広告は、広告主が売りたい商品やサービスに興味がありそうな人に広告を出すことができますから、広告主にとっては非常に魅力的です。さらに言えば、ビッグ・データとアナリティクスの発展も重要です。企業は、以前は処理できなかったデータベースの外にある非構造化情報まできわめて高速に処理できるようになってきました。情報はもっと広く収集され、もっと精度高く分析されるところに向かっています。個人の行動履歴といったライフログを取得される消費者にとってはプライバシーが侵害されるリスクもまた大きくなっています。

パソコンだけではなく、ケータイ、スマートフォン等からも個人情報を含むライフログが取得されています。パソコンのブラウザに怪しいツールバーをインストールしたり、スマートフォンに怪しいアプリをダウンロードしたり、それからポイントカードを提示することでも個人情報は漏れていきます。

ポイントカードの申込み時に私たちは氏名、生年月日、性別、住所、電話番号、メールアドレスなどを記入しています。DVDを借りたくて入会したつもりが、方々にポイント加盟企業がある。コンビニやファミリーレストランや駐車場などいろいろなところで商品やサービスを購入するたびにカードを提示するだけで、1ポイント1円相当がたまります。時にはキャンペーンの割引券などももらえます。ポイントカードを活用してお得な生活といきたいところですが、私たちは、POSレジを通じて、商品名、メーカー、金額を送信しています。バーコードにそうした情報が既に入っているからです。個々の情報をみれば、確かに、たかがコンビニのおにぎりやガムの類の情報です。こんなところに神経質になる必要はないのかもしれません。しかし、DVDやCDや書籍、図書館の貸出履歴やコンビニ商品やファミレスでの食事の内容、水虫薬やいんきんの薬や妊娠検査薬などの医薬品、処方箋を必要とする疾病にかかっているという事実やその金額、その期間――などなど多様な情報がどんどん蓄積されていくわけです。

パソコン上では、ツールバーなどを通じて、ウェブページのURL等の閲覧履歴が取られていきます。現実世界ではなかなか表に出しづらいネガティブな情報、例えば、アダルト系やコンプレックスに関することなども、インターネットでなら検索できるという人は多いでしょう。つまりインターネットで行動履歴を取得されると、そのようなネガティブな情報を取得される可能性が非常に高いということができます。

私は行動ターゲティング広告がすべて悪いと言いたいのではありません。先に述べたように社会が変化したわけですから、それに対応した形で広告のあり方も変わっていかざるを得ません。広告はけして悪ではない。広告がなければ消費者も商品の存在を知る機会が限定されてしまう。消費が刺激されずモノもお金も回らなくなる。経済を活性化させるための重要な機能ですから、ここが目詰まりを起こすのは社会の仕組みとして甚だよろしくありません。

プライバシーはどのようにして守られるべきか

でも、消費者をターゲティングするというのは、消費者のプライバシー侵害と隣あわせの行為です。企業は、そのことを十分に理解しています。したがって、いかにライフログを適法にビジネスに用いるかを考えています。一つは、本人の同意を得て利用目的の範囲内でライフログを用いる方法です。もう一つは、対象となるライフログから特定個人の識別性を失わせて個人情報保護法の適用から免れるという方法です。

前者においては、本人同意の形式性が問題になります。約款の多数の条文の中に企業にとって都合のいいことが多数書かれています。私たちは申込用紙に必要事項を書くという行為の中でそれに同意し署名させられているわけです。具体的には、不利益事実を告知しないという消費者保護法上の問題や、利用目的が不明確で特定されていないとか、共同利用の共同利用者の範囲がポイント加盟企業のように曖昧なままであるといった個人情報保護法上の問題などが散見されます。これは、正直な告知をすることで顧客に逃げられてしまうという事業者側の危惧が影響しているものと思われますが、放置していい問題ではありません。その多くが法の潜脱的解釈でしのいでいます。現行法の厳しい解釈でその是正を求めていくべきでしょう。

後者においては、たとえ特定個人の識別性がなくても、そこに識別子としての番号、IDを用いて管理する場合は、プライバシー侵害という不法行為が発生し得るのです。

やはり新たな広告手法や新しいビジネスが登場したならば、新たなルールが作られるべきです。ここでルールを作るというのは、禁じ手を明確にするということです。禁じ手が明確になることで消費者の保護も実現されますし、企業もその禁じ手以外の領域の自由が保証され、事業者間でフェアに闘えるという競争環境が整備されるという利点があります。

中でも一番重要なのは、正直でわかりやすい告知です。これがあれば、消費者もルールを知った上でこうした広告モデルのサービスに注意深く接することができます。行動ターゲティング広告による便利さ、例えば自分に適した商品のリコメンデーションなどを受け取ることもできます。無料で便利で楽しいソーシャルネットワークサービスを利用できたりします。ポイントカードの提示でポイントがたまります。しかし、そのとき自分のプライバシーを売り渡しているかもしれない。その利害得失を冷静に考えるための注意喚起が必要です。時には、ポイントカードを提示せずに買い物すべきですし、ネットのサービスをログアウトしてから検索機能などを使うべきです。こうした実質的にサービス等から自由に離脱できる、使い分けなど選択可能であることが保障されるのはとても重要なことです。

また、そのほかにも、蓄積された個人データを開示閲覧する権利や、一定の条件の下でこうした履歴を消去してもらう権利なども認められなければならないでしょう。

他人のプライバシーも守る

最近ネット上では、校内犯罪の容疑者やその家族の個人情報をネット上で探し出し、それをネット上にさらしたりする人が登場してきました。そこまでの手間をかける人は少数派かもしれませんが、義憤にかられてか安易にそうした情報とリンクをはったり、ツイッターで拡散させたりする例は多数見受けられます。これは一つのリンチです。いじめに対していじめで応える構造は痛ましい貧相な社会です。こうした行為もまた違法な行為です。

ソーシャルメディアの特徴である情報拡散の規模の大きさとその速度の速さは、他人のプライバシーを侵害した際の影響を大きくしています。ちょっとした過ちが大きな影響を与えることに実感がないのかもしれません。隣の席の子とおしゃべりする感覚とは異質のものであるところのイマジネーションが足りません。具体的事件を題材にみなで議論してみることも良い取り組みかもしれません。自分のプライバシーを守ることと同様に、他人のプライバシーを守ることの重要性も理解してもらうことは非常に重要なことでしょう。適法に行動する責任、倫理面に配慮する賢明さを学ぶこと、そしてそれにネガティブにならずに、意見を発信することの重要性を学んでいくべきでしょう。

さらに「その情報が自分の隣人にどういう影響を与えるか」ということも考慮する必要があります。自分が何となく出した情報も、他人の情報と関係づけられることで別の意味を持ちはじめることがあるのです。ここでXX大学に通うA君とB君という学生を例に考えてみましょう。A君とB君は仲がよく、ツイッターでお互いをフォローしあって日々会話をしています。B君はプライバシーに気を遣い、ツイッター上では通っている大学名を公表していません。ここでもしA君がプロフィール欄に大学の名前を書いたり、B君との会話以外のところでXX大学に通っていることが明らかに分かる書き込みをしたりするとどうでしょうか。B君がXX大学の学生であると容易に予想できます。この例ではA君の出した情報はA君の権利利益に閉じていません。A君のデータが基礎になって、B君がXX大学の学生であるとクラスタリングされたわけです。ふと出した情報が、社会生活の中で他の人に思わぬ負の影響を与える可能性があります。特に学生や生徒はそこまで社会生活を考えることがないので、このような失敗に陥りがちです。

電子機器もサービスも進化していきます。特定のネットサービス上の管理画面を見せてリコメンド機能を停止させたり、履歴を消去させたりといった操作をしてみるという具体的レクチャーも必要でしょうが、すぐに陳腐化してしまいます。社会の仕組みを興味深く観察する中で、何に注意すべきか、その上でどう便利に使いこなし、情報を発信し社会にどう積極的に関わっていくか、その基本的な力を養成していくべきでしょう。

取材・構成:香月 啓佑(一般社団法人インターネットユーザー協会[MIAU]事務局長)

著者プロフィール

鈴木 正朝(すずき まさとも)

Twitter: @suzukimasatomo

法学者(情報法)。1962年生まれ。中央大学大学院法学研究科博士前期課程修了、修士(法学)。情報セキュリティ大学院大学 情報セキュリティ研究科 博士後期課程修了、博士(情報学)。ニフティを経て、現在は新潟大学法科大学院教授。主に個人情報保護法制、プライバシーの権利、情報マネジメントシステム、情報システム開発契約等に関する研究を行う。

内閣官房では、政府情報システム刷新会議臨時構成員として共通方針案、政府CIO制度の検討、マイナンバー制度の提言を行う。厚労省では、社会保障分野WG構成員として医療等個人情報保護法案の検討、経産省では、JIS Q 15001原案の起草、プライバシーマーク制度創設、個人情報保護ガイドライン案の作成に関与する。

岡村久道弁護士との共著『これだけは知っておきたい個人情報保護』(日本経済新聞社)は87万部を発行し、発行年の2005年には、ベストセラー総合5位(書籍ビジネス書1位)にランキング入りした(日販・トーハン調べ)。

マイブームはマイナンバーにTカード。都内と新潟の二重生活の日々。

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