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リレー連載

ソーシャルメディアの社会学

第2回 ソーシャルメディアと教育の関わり
小寺信良インタビュー

「ソーシャルメディアの社会学」第2回では、ソーシャルメディアと教育との関わりを掘り下げます。子供とITという観点で積極的に発言されている、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事小寺信良さんのインタビューです。

インターネットと教育現場

――インターネットの普及によって、教育の現場が一番変わったことはなんでしょうか?

小寺氏(以下小寺):教科としての情報科は今までは高等学校にしかありませんでしたが、中学校における技術家庭科にも情報分野が取り入れられました。またネットリテラシーを育てるという視点を、生活指導も含め広い意味で授業の中に取り入れる必要が出てくるなど、いくつかの方針の変更はありました。しかしまだそんなにガバッと大きく変わったという印象は受けません。

小学校では、教科の中に情報教育の側面を入れこんで指導していくという方針が示されているのですが、現場の先生は正直なところ困っていると思うんですね。どの教科にどのような形で情報教育を入れこんでいけばいいのか、具体的な方針が示されていません。効果的な情報教育をするためにも、具体的な指針を示すとか、成功例を広く紹介するなどの工夫が求められています。

ただ学校、特に公立学校がネットリテラシーを教育するという課題から逃げなくなったのは大きな変化かもしれません。2009年に文部科学省が「小中学校には携帯電話を原則持ち込み禁止とする」という方針を示しました。その方針が示された背景のひとつには、生徒の携帯電話の使用まで学校で面倒を見きれないという実情があったと思うんですね。その時代に比べれば、変化が起きていると感じます。

特に中学校の技術家庭科の先生を中心に「ネットを頑張ってみよう」「ネットを教えていこう」という動きが出てきています。これからの動きに注目していきたいと考えています。

インターネットを使った効果的な勉強法はあるのか

――インターネットを用いて勉強しようという動きがありますが、これについてはどうお考えですか?

小寺:私は「インターネットがある」ということだけでできる勉強の方法というのは、特に小中高生にとってはあまりないのではないか、と感じています。コンピューターを使った学習コンテンツは昔から、それこそWindows95が出る以前からありました。すでにネット上に小中高生向けの学習コンテンツはたくさんありますが、しかしそれらが大きな効果をあげたという例は少ないですね。特に教科教育という視点においては難しいのではないかと感じています。

しかし今はIT機器を用いての学習ということについては大きな変化が来ています。今まではインターネットを用いた勉強といえば、パソコンの前に座って課題をこなすという雰囲気がありました。しかしスマートフォンやタブレット端末が普及しはじめたことで、ITの特性を活かした教育の可能性は飛躍的に広がったと考えています。IT機器を使ったほうが効果が高い分野については、どんどんコンテンツを増やして活用をしていくべきでしょう。

IT機器は自己学習を助ける

――例えばどんなものがIT機器の効果が高い分野なのでしょうか?

小寺:IT機器を用いた学習は、集合教育より自己学習に向いています。

僕には8歳になる子供がいます。この年代の子供がクリアすべき学習課題の山のひとつに、掛け算九九のマスターがあります。子供に九九を覚えさせるために、学校は子供に計算カードを配布してくれました。これを一枚ずつめくって掛け算九九を覚えさせようとしているんですね。しかしこれではなかなかモチベーションが上がらなかったんです。

そこでiPadに対応した掛け算九九を覚えさせるためのアプリケーションがあったので、ダウンロードして使わせてみました。するとすごく効果があったんです。クイズ形式なのでインタラクティブ性があって子供の興味を引くし、飽きたら歌が始まったりして、遊び感覚で覚えていくことができたんです。

掛け算九九をマスターするというのは自己学習でしかできないことです。どんなに指導しても、生徒が覚える努力をしなければマスターすることはできません。また自己学習の習慣ができるかどうかが学力向上の鍵だということは、この記事をお読みの方はすでにご存知でしょう。スマートフォンやタブレットの特性を活かした学習教材は自己学習を助けてくれるひとつの大きなきっかけになると思います。

「善意のインターネット」という原体験

――ここまではインターネットやIT機器が教育に与えた影響をうかがってきました。ではソーシャルメディアについてはどうでしょうか?

小寺:ソーシャルメディアが教育の世界に影響を与えたかと言われると、非常に難しいですね。特に小中高生向けの教育ではまだ与えていないと感じています。教育とソーシャルメディアの連携はまだできていないのではないでしょうか。

ただし可能性は十分にあると思います。「学校で教える」ということには2種類あると考えていまして、ひとつは「先生が生徒に教授する」というタイプ。そしてもうひとつは「生徒どうしが教えあう」というタイプです。グループ学習と言ってもいいかもしれません。グループ学習では、教える生徒は教えながら自分の知識や考え方を整理することができますし、また教えられる生徒は自分とは違う価値観に触れることができます。このような特性をもつグループ学習にソーシャルメディアを取り入れることは非常に効果があるのではないでしょうか。

今までグループ学習といえばクラス内や学校の同じ学年の中でグループを作って取り組む、ということが一般的でした。しかしソーシャルメディアを活用すれば、他校や他の県の生徒と一緒にグループ学習に取り組むことができます。知識や考えをまとめて発表すること、そして他の価値観に触れるというグループ学習の利点をさらに効果的に増幅できます。こういう取り組みは一回やってみると面白い結果を生むと思います。

学校の授業の中でソーシャルメディアを経験させることは、インターネット上でお互い善意でコミュニケーションできる数少ない経験を与えることにつながります。そのようなコミュニケーションを一度体験させることで、生徒たちに「善意のインターネット」という原体験を与えることができます。ドブ川にきれいな水流をいきおいよく流すことで川自体を浄化する仕組みがありますが、この原体験は生徒たちが将来大人になったときに、インターネットをきれいに保つための原動力になるはずです。

生徒たちをソーシャルメディアから遠ざけてよいのか

――大人と若年層とで、ソーシャルメディアの利用について使い方になにか違いはあるものでしょうか?

小寺:ツイッターやフェイスブックなどの活発なソーシャルメディアは、一般的に児童や生徒たちが使うことができないようになっています。なぜならそれらのサイトはフィルタリングによってアクセスが禁止されているからです。ソーシャルの動きが活発なところほどフィルタリングの外にあるわけです。児童や生徒たちが利用できるソーシャルサービスとしてグリーやモバゲーがありますが、これらは年齢を登録させることで、自分と年齢が離れすぎた人との交流をさせないように設計されています。これは彼らを犯罪の被害から守るという意味で必要な措置であるとは思いますが、ではそのように徹底管理されたコミュニケーションが本当にソーシャルなのかと言われると、それは違うと感じます。

彼らも大学生になるとツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアを使用するようになります。今の大学生はほとんどツイッターやフェイスブックのアカウントを持っています。友達とのやり取りだけでなく、自分に必要なニュースを仕入れたり、自分の活動の賛同者を集めたりなど、ソーシャルをベースに大学生活を過ごす学生も少なくありません。

なにも耐性がない状態で大学生になって、いきなり制限のないインターネットの大海原に触れさせると大きな落とし穴にはまってしまう危険性があります。それを防ぐためには、成長にともなって段階的にインターネットに慣れさせていく必要があります。インターネットで知らない人とコミュニケーションするとはどういうことなのか、匿名でのコミュニケーションとはどういうことなのか、そして実名と匿名のコミュニケーションはどう違うのかを体感してもらい、その上でインターネットを使って人とコミュニケーションする「勘」を養わせる仕組みが求められています。また今は悪い大人が技術の隙を突いて児童・生徒だけのコミュニティーに侵入した場合、良い大人がその中に入れないために、悪い大人を排除できないという問題もあります。

まずはタイムラグを気にせずに

――生徒たちがソーシャルメディアを使うために小寺さんが大切だと思っていることを教えて下さい。

小寺:ソーシャルメディアの一番の特徴は人と人がリアルタイムにつながることだと言われていますが、しかしそれは絶対ではなくて、タイムラグがあってもいいはずなんですね。そもそも通信を用いてコミュニケーションをする上では、必ずタイムラグが発生します。そのようなタイムラグがあるコミュニケーションの中で、自分が伝えたいことをどうやって伝えていくか、というテクニックを身につけることが大切だと思っています。

リアルタイムを意識すると言葉足らずのコミュニケーションになりがちです。「とりあえず適当に言葉を投げておいて、わからなかったら相手が聞いてくるだろう」という雑なコミュニケーションになってしまうことが多いと私自身感じています。しかしそれでは説明する力がつきませんし、またディスコミュニケーションの原因にもなります。今自分が出せる情報について要点を考え、相手にわかりやすい形で言葉をうまくまとめて説明するという技術は、時間差があるからこそ身につくものです。

そもそもネットでのコミュニケーション自体も最初は大きなタイムラグがありました。パソコン通信や掲示板でのコミュニケーションでは今のように常時接続はできませんでしたから、まず過去の書き込みをダウンロードして回線を切断し、そして自分なりの意見をまとめて、再度回線を接続して投稿するという流れをとっていました。そして翌日の夜にまたサイトにアクセスして書き込みをダウンロードすることで自分の書き込みへの反応を読んでいたわけです。技術の発展と社会情勢の変化に伴って、チャット、インスタントメッセージ、ケータイメール、そしてソーシャルメディアへとコミュニケーションの手段が変化し、コミュニケーションの時間スパンがだんだんと短くなってきたんですね。つまり、今インターネットをバリバリ使いこなしている大人も、タイムラグのあるコミュニケーションを経験してきたのです。

ですから学校でソーシャルメディアを活用する場合、リアルタイム性はあまり意識する必要はないと考えています。ゆっくりした時間軸の中で人とつながっていくということをまずは重視して、その上でだんだんとその時間のスパンを短くしていけばいいのではないでしょうか。

例えばツイッターを用いる場合は、クラスや学校でアカウントを作成し、そのアカウントに触れるのはグループ学習の時間だけ、という運用で始めるのはどうでしょう。アカウントは非公開設定でよいと思います。そのときの学習テーマについて参考になるニュース系のアカウントをフォローするのも面白いかもしれません。最初は学習テーマについての感想や調査結果をグループごとにまとめ、それを投稿します。そして次の時間には他のグループの投稿を読んで、感想や疑問を返信します。こうすることでソーシャルメディアでの情報のやり取りをスローテンポで体験することができます。そして学習が進むにつれて、その時間のスパンを短くしたり、情報収集のためのフォローを増やしたり、発表用の公開設定のアカウントを準備してパブリックな場で発表したりしていくなど、発展させてみてはどうでしょうか。

取材・構成:香月 啓佑(一般社団法人インターネットユーザー協会[MIAU]事務局長)

著者プロフィール

小寺 信良(こでら のぶよし)

コラムニスト。映像技術者。一般社団法人インターネットユーザー協会代表(MIAU)理事。1963年宮崎県生まれ。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、ライターとして独立。AV機器から放送機器、メディア論、子供とITの関係まで幅広く執筆活動を行う。主な著書に『Ustreamがメディアを変える』(ちくま新書)、『子供がケータイを持ってはいけないか? 』(ポット出版)など。WEBではAV Watch、ITmedia、価格.comにてコラムを好評連載中。2011年11月より週刊メールマガジン「小寺信良の『金曜ランチボックス』」の配信を開始。

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