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きょうの特別講義

「きもの」文化の伝承と海外発信をめざす
プロジェクト研究をめぐって

横浜国立大学 薩本弥生

  はじめに

  現代は核家族化の定着,便利な機器の普及,家事の外部化などによって,生活技術を伝承する機会が減少している。国際化・情報化の進展によってモノの入手が容易になる中で私たちの価値観も変化し,近年,和をテーマとした雑誌が発刊されるなど,日本の伝統的なモノに興味がもたれつつあるが,依然,古き良きモノや自国の伝統・文化への関心は低いようである。

被服に目を向けると,日本の「きもの」文化は,これまで日常着として,あるいは“はれ”の場の衣服として日本の生活や自然と関わりながら,「きもの」の染色,織,縫製,着装に関わる技術に支えられ形成されてきたが,日常着が洋装化し既製服が普及した今日,家庭において「きもの」文化に触れ,伝承される機会が減少してきたため,「きもの」文化がこれらの技術に支えられてきたことが理解されにくくなりつつある。

このような背景の下,2006年に教育基本法が改正され,「伝統や文化を尊重し,我が国と郷土を愛すると共に,国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」が新たな教育の目標として規定された。この規定を受け,2008年3月の学習指導要領告示では,国際社会で活躍する日本人の育成のため,我が国の郷土の伝統や文化を受け止め,それを継承,発展させるための伝統や文化に関する教育の充実を図ることが求められている。

そして,中学校の技術・家庭科の衣生活分野では「和服の基本的な着装を扱うこともできること」が盛り込まれた。日本の伝統文化である和服について着装も含めて理解するための教育,すなわち「きもの」文化をどのように教育していくかについての検討,新しい教育デザインが必要となってきている。

また,政府の施策の下,全国規模で外国人観光客が増加傾向にあり,情報のみならず,人やモノの移動を含むグローバル化が進んでいる。外国人の日本文化への関心は高く,日本の文化を世界に発信する機会が増え,文化の相互交流はさらに進むと考えられる。しかし,日本で,そして世界へ日本の伝統文化をどのように伝えていくか,その方法についての検討もこれからの課題といえる。

筆者らは,このたび,「きもの」文化を取り扱い,「きもの」文化に対する理解を深める体験型教育プログラムの開発に取り組んでいる。ここでは,この体験型教育プログラムの開発に関する研究プロジェクトについて,その概要,および2009年度の活動内容をその中間報告書にまとめた内容1)2)をベースに紹介し,その後の私の教育・研究上の活 動への波及効果についても紹介する。

1) 薩本弥生,川端博子,堀内かおる,扇澤美千子,斉藤秀子,呑山委佐子,「きもの文化の伝承と発信のための教育プログラムの開発―「きもの」の着装を含む体験学習と海外への発信―」『服飾文化共同研究報告2009』p.90-95,2010年,服飾文化共同研究拠点,文化ファッション研究機構,文化女子大学
2) 薩本弥生,川端博子,堀内かおる,扇澤美千子,斉藤秀子,呑山委佐子,「『きもの』文化にかかわる教育プログラム開発の教育デザイン」『教育デザイン研究』1号,p.100-102,2010年,横浜国立大学教育デザインセンター



  開発のきっかけとなった海外研修

  まず,筆者が国内での若者への「きもの」文化の伝承と,海外への発信についての教育プログラムを研究テーマにした,プライベートなきっかけについて述べる。

横浜国立大学教員海外研修制度により2008年3月31日から,イギリスのミッドイングランドにあるラフバラ大学において人間科学部のHavenith教授に師事し,客員研究員として7ヶ月間研修する機会を得た。個人的な事情により娘2人(当時13歳と11歳)を連れての子連れ留学となった。

ラフバラはレスター州に属し,北はノッティンガムやダービー,南はレスターの大都市に30分~1時間の距離で,イギリスの真ん中に位置するが自然にあふれ,子どもと過ごすにはとても良い町だった。

1.インターナショナルデイ

日本人会からの紹介で,4月下旬にラフバラ大学で年に一度開催される,留学生主催のインターナショナルデイに娘と一緒に参加し,お手伝いをした。

折り紙の実演やミニおにぎり,桜の花びらや抹茶入りのクッキーやカップケーキの試食品を配付した。書道コーナーでは毛筆で名前を漢字やカナで書いてプレゼントし,箸での小豆つまみゲームコーナーも設けた。書道コーナーは珍しいのか,行列が出来る人気だった。学生の皆さんの事前の準備のおかげで成功裏に終わり,楽しく興味深い体験が出来た。

私たちは娘たち共々,浴衣を着て日本をアピールした。浴衣は人目をひき,記念撮影を何度も頼まれた。日本の伝統文化としての「きもの」文化を気軽に演出できる浴衣のありがたみを感じた。

2.イギリスで日本を意識した出来事

週末には気分転換に周辺都市の古城や博物館巡りをした。どんな田舎町でも博物館があり,その町の歴史的建造物や文化遺産を大切にしていた。また,イギリスには自動車,家電,ゲーム機などを中心に日本製品が普及していた。細やかな気配りのある日本製品は信頼されているようだった。日本のアニメやマンガも翻訳され,目についた。柔道らしき子ども向けの教室も地区センターで沢山開講されていて人気があるようだった。

娘たちが通っていた地元の小学校,中学校でも日本がテーマになった本を題材にすることや,日本の文化を紹介するビデオを見る授業があったそうだ。しかし娘たちに言わせると,少し間違ったことを先生が語っていたりして,英語がもっと流暢だったら正したくなることが多々あったようだ。

日本に戻ってイギリスでの半年間をふり返り,イギリス人の生活文化に触れることで日本のことを少し客観的にみることが出来たように思った。

その中で,日本での生活では当たり前に思っていた日本人の国民性(几帳面さ,勤勉さ,もの作りの技術等)やその成果である日本製品の品質の良さなど,日本人の良いところもいろいろと実感することが出来た。

その一方で,イギリス人は自国の伝統や文化を誇りに思い大切に守っているのに対し,日本人は,少なくとも私は欧米の文化に憧れが強く,日本の文化に自信をもっていただろうか,自国の文化を外国の人にも発信できていただろうか,と反省し,もっと知識をもちたいと思った。特に私は被服が専門であるのだが,その日本の伝統文化である「きもの」文化をもっと学び,外国の人にもきちんと伝えたいと思った。

おりしも,文化女子大学に文化ファッション研究機構が立ち上がり,「きもの」文化についての研究の公募があり,これに申請することとなった。2009年,申請した公募が採択となり,「きもの」文化の伝承と海外への発信についての本プロジェクト研究に着手できることとなった。

  プロジェクト研究の内容

  1.目的と概要
本プロジェクト研究の概要は■1のとおりである。

この目的は,家庭科の授業の中で「きもの」の中でも最もカジュアルで身近である浴衣の着装を含む体験的学習を通して,日本の「きもの」文化を次世代に伝承することを意図して,教育プログラムの開発と授業支援を行うことである。

これらの実践を通じて子どもたちの心に日本の「きもの」文化を尊重し継承・発展させようとする芽を育てることができるのではないか,また,グローバル化に対応し,外国の中学校での浴衣の着装を含む体験的授業実践を通して,日本理解と文化交流の促進に貢献できるのではないかと考えている。
 
■1 本プロジェクト研究の概要
本プロジェクト研究の概要
 

2.プロジェクトの実践内容
1)授業研究用教材,着装ビデオ作成

大妻女子大学総合情報センターメディア教育開発センターで2009年7月に撮影を実施し,日本語版,英語版ナレーションの録音,編集を行い,男女用の浴衣の着装・たたみ方のDVDを作成した。

また,着つけに関するテキスト教材に向けてはプロのイラストレーターに委託してイラスト作成する他,浴衣生地の産地や工程に関する教材作成のための取材として浴衣の伝統的な染めの技法を学ぶため,浜松の浴衣の「注染」染め工場および八王子の「長板中形」染め工場の見学を行った。さらに,浴衣着装DVDを用いて,「着方が分かる」「たたみ方が分かる」「産地が分かる」「縫い方が分かる」を切り口としたホームページの作成,すなわち,インターネットによるe-Learning教育環境の整備に着手した。

現在,男女別に浴衣の着つけ方法・たたみ方を動画等で学べる「着方が分かる」部分のみ,本学教育人間科学部マルチメディア文化課程のスタッフに委託し,e-Learning教材として以下のサイトにアップしている。日本語版と英語版がある。授業では習得までは難しいため,自習用の浴衣の着つけの練習に活用してほしい。 http://kimono-bunka.ynu.ac.jp

2)浴衣を題材とした日本での授業研究の実施
浴衣を題材とした授業研究の一環で,2009年7月~10月に協力校の一つ,本学(横浜国立大学) 教育人間科学部附属横浜中学校において葛川幸恵教諭に授業実践を依頼し,授業研究に着手した。第2学年対象の授業では授業前に,①浴衣やきもの「文化」に関する意識調査を行い,授業で着装に関するビデオを見た後に,②浴衣の着装・たたみ方ビデオの分かりやすさの評価を行い,たたみ方と着装の各授業後に,③浴衣のたたみ方,着装の仕方に関して興味・関心,理解度,習熟度に関する調査を行った。

第1学年対象の授業では被服の役割・自分らしい着装について学んだことを踏まえ,洋服とは異なる和服の特性について授業を受けた後,実際に浴衣の着装を行い,たたみ方の学習をした。

本年度は,昨年度の授業実践の内容を踏まえ,プロジェクトメンバーが作成した指導案のマスタープランを基に,協力校(千葉県立流山南高等学校,私立吉祥女子高等学校,私立洗足学園中学校,横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉中学校,川崎市立金程中学校)の担当者と打ち合わせを行い,教材内容について検討するとともに,現場の実情に合わせて指導案の擦り合わせを行い,授業を実践していただいている。

これから授業分析・評価を進めていくが,協力校の先生方のご尽力で興味深い結果が得られると思われる。

3)海外での着装ビデオを用いた浴衣着装の実践
海外での授業実践の準備としてイギリスのラフバラにおもむき,日本人会およびラフバラ大学のDesign& Technology Departmentの共同研究者Zanker氏の協力により,現地の大学生および社会人対象に授業研究の準備段階として,
①日本の伝統文化に関するアンケート
②開発した英語版着装ビデオを用いた浴衣の着装体験
③浴衣の着装・たたみ方ビデオの評価
④着装後の着装感についてのアンケートを行った。

着つけワークショップの様子は,次のラフバラ大学のホームページに紹介されている。
http://www.lboro.ac.uk/service/publicity/news-releases/2009/142_JapaneseTeachers.html

研究プロジェクトは本学のホームページでも次のサイトに紹介された。
http://www.ynu.ac.jp/topics/topics 09 085.html


  研究プロジェクトの今後

  紹介された教育プログラム開発の研究活動は,大きく二つに分けられる。一つは,国内の中学生・高校生を対象とした教育活動,もう一つは海外の中学生を対象とした活動である。従来の教育プログラムの開発は,特に日本の文化を題材とした場合,国内に限られるものと考えられるが,海外からの観光客も増えている今日,国内の中学生 を対象とした教育プログラムを基盤に,海外での教育プログラム開発まで検討した教育のデザインは,今までにない試みといえる。

従来,和服文化の伝承の媒体として浴衣をとらえた研究3)~6)は見られるが,教育と直結した形での検討7)~8)は極めて少ないと推察される。また,一般に,和服の着装のDVDは販売されているが,これを中学校,高等学校での教育に取り入れることは行われてこなかった。中学生,高校生が見て分かりやすい着装DVDを開発し,研究授業に提供することは,新しい教育デザインの検討として位置づけられる。

本プロジェクトの研究活動では「きもの」の中でも最もカジュアルで身近な浴衣を取り上げている。そして,浴衣を題材とした着装を含む学習を通して,子どもたちの心に日本の「きもの」文化を尊重し継承・発展させようとする芽を育みたいと考えている。

このような意図で「きもの」の着装に関して,教育の現場で実際の研究授業を行い,着装教育にどのような準備が必要であるか,どのような方法がよいか,などの検討は,特に学術レベルでは十分に行われておらず,このような実践の蓄積が,新しい教育のデザインを組み立てていく上で欠くことができない作業である。

大学生を主な対象とした「浴衣」に対するイメージ評価に関する研究は,いくらか見られる9)~11)。これらを踏まえ,「浴衣」の着装に伴う,中学生・高校生が外見および心の変容により,衣服を着ることについて考えることを促すという側面,衣服の社会的役割について理解するという側面について検討する必要がある。本研究プロジェクトはこのような側面についても十分検討していく方向で進んでおり,この点でも,衣服に関わる新しい教育デザインのあり方を模索できるのではないかと考えている。

さらに,海外における「浴衣」の着装教育においても,日本と同様,準備・方法の検討を含め実践を試み,これを踏まえて教育方法をさらに詳細に検討する積み重ねが必要である。

今後,「浴衣」を題材として,今回紹介した活動に加え,概要(■1)に示したとおり,国内外向けの資料の開発,授業実践と授業方法の検討,さらには,国内外向けのe-Learningの構築等の研究活動を行っていく。

これらの研究活動により,「きもの」文化に関わる新しい教育プログラムが開発され,より着実に実践できる教育デザインを示していけるよう活動していく予定である。示された教育デザインは,今後,日本文化の教育が必要とされる教育現場での授業の充実に役立つものである。また,生涯学習にも応用でき,文化の伝承に寄与するとともに,日本文化の海外への発信の一助となると考えられる。

3) 城眞理子,内田惠美子,幡野暁子「和服文化の伝承媒体としてのゆかたを考える」『繊維製品消費科学会誌41(4)』p.45-55,2000年
4) 小菅充子,布施谷節子「三世代にわたる生活文化の伝承と将来への展望(4):食生活と衣生活における祖母との同居・非同居の関連性」『和洋女子大学紀要家政系編42』p.81-89,2002年
5) 布施谷節子,小菅充子,中島明子,名取史織,三善勝代「三世代にわたる生活文化の伝承と将来への展望(3):男子学生と女子学生の比較」『和洋女子大学紀要家政系編42』p.109-124,2002年
6) 小菅充子,布施谷節子「三世代にわたる生活文化の伝承と将来への展望(1):食生活と衣生活について」『和洋女子大学紀要家政系編41』p.97-106,2001年
7) 中村哲編「伝統や文化に関する教育の充実―その方策と実践事例―」2009年,株式会社教育開発研究所
8) 鈴木明子「被服製作実習における授業プロンプトの有効性の検討―浴衣製作実習における学生の記述分析を通して―」『日本教科教育学会誌,26(3)』p.33-39,2003年
9) 川上梅「再見による服装イメージ評価の変化―中学・高校・大学生女子の新奇なゆかたに対する印象」『繊維製品消費科学会誌44(11)』p.673-681,2003年
10)呑山委佐子,小嶋葉子,田村友香「女子大生の和服に関する意識と変わり浴衣の受容態度」『大妻女子大学家政系研究紀要38』p.31-41,2002年
11)杉山真理,小林茂雄「女子大学生のゆかたに対するイメージ」『共立女子大学家政学部紀要40』p.37-42,1994年



  最後に

  1.学内での浴衣ファッションショー
筆者は,本学の教員養成のための授業で「被服造形学及び実習I」という授業を担当しているが,先に紹介した海外研修での体験や本プロジェクトがきっかけで,2年前から実習の題材として浴衣を選択し,製作を行っている。現場の家庭科を担う教員として被服製作の技能を習得するだけでなく,日本人として和服文化を被服構成面からも学んでもらいたいと考えての選択である。

最近は,中学で被服製作が選択科目になり,高校でも大学受験のため家庭基礎履修の学生が多く,実習の経験が減っている。また,家庭でも親子で被服や小物の製作などをする家庭が減少気味で,被服製作が苦手な学生が増加傾向にある。

そんな学生たちには浴衣製作は,結構大変である。富士登山にたとえて,山登りの途上は幾多の困難があり,先が見えない焦燥感に駆られるが,最後に頂上に到達したとき,すなわち出来上がって浴衣ファッションショーを終えたときは,富士山の頂上からの景色を眺めたような達成感が得られるはずと言って学生を激励しつつ,授業を進めた。

今年は,履修学生のうち半数が男子という異例の事態のため,例年よりも苦労する点も多く,ショーの前日までかかって浴衣が完成するというギリギリの学生もいたが,何とか間に合わせて当日には出来たての浴衣を着てショーを繰り広げた。それまでの苦労も忘れるような,とても楽しいショーになった。

また,完成までの動機づけのため,浴衣ファッションショーは公開にして,学内の図書館のメディアホールという舞台を用意し,今年は大学のホームページでも広報していただいた。次のサイトを参照してほしい。
http://www.edu.ynu.ac.jp/hus/edu/644/
http://www.ynu.ac.jp/hus/koho/1025/detail.html

前年度のショーは,こちらのサイトに掲載している。
http://ynu-satsumoto-labo.ynu.ac.jp/index.html

2.留学生の夕涼み会での浴衣着つけ企画
研究プロジェクトのことを大学の広報に紹介いただいたことがきっかけで,本学国際課からの依頼で学内の留学生の夕涼み会というイベントをお手伝いすることになった。例年行われている民族舞踊や民権の太鼓の演奏に加え,我々は,浴衣の着つけ企画を手伝った。

着つけをするにあたり,筆者が開講している被服造形学実習で浴衣製作を経験したことのある学生を中心に協力を要請したところ,学部から院生まで十数名の学生たちが集まってくれた。学生たちの当日の頑張りのおかげで,とても好評だった。学生たちにとっても留学生との交流がもて,日本文化を見直す意味でも,興味深く,楽しい体験になったようだった。

留学生担当の教員から当日の着つけを体験した留学生の様子に関して次のような感想をいただいた。「着つけてもらった留学生たちは,嬉しくて仕方ないという表情だった。最初躊躇していた学生たちも,他の学生たちが着ているのをみて着つけ体験し,はにかみながらも満面の笑みを浮かべていた。当初留学生や外国からの来客がどのくらいきものへの興味があるのか不明だったが,一様にきものに強い関心を示すことが分かった」。

留学生の夕涼み会は次のサイトに紹介されている。
http://www.kokusai-senryaku.ynu.ac.jp/album.html#yusuzum



  プロジェクト実践の波及効果

  日常着が洋服となり,既製服が普及した今日,家庭において和服文化に触れ,伝承される機会が減少してきたため,和服文化がこれらの技術に支えられてきたことが理解されにくくなりつつある。

私たちの衣生活を支えてきた和服文化やその染色・織・縫製・着装に関わる技術には,学ぶところがたくさんある。機会あるごとに意識的に触れようとしないと和服文化の良さが理解されない。是非,触れる機会を積極的にもってほしいと思う。普段の生活は動きやすい洋服で結構だが,和服の良いところは受け継ぎ,現代の暮らしに生かしていけたらと思う。日本の伝統文化を理解することは,自国の文化に誇りをもつことにつながる。

また,国際交流の場で日本の文化を理解し,一部の技術を身につけておけば,日本の文化を世界に発信することもできるようになる。様々な国や民族の歴史や伝統的な文化を知り,理解し,文化の違いを尊重し合える関係を築いていく上でも大切なことである。

さらに本研究は筆者自身新たな研究分野へ挑戦をするきっかけになったと思う。これまでの研究は条件を統制して行う実験的研究が多かったため,実験誤差はあるものの,研究手法そのものは定まっている。一方授業研究は,まず研究者と実践者が同一でなく,現場の先生の授業実践に大学の教員が関わって,なるべく客観的に実践結果を評価し,より良い指導案に反映させていく過程をへる。

内容をより良くしていく試行錯誤的な要素が大きいこと,たとえ同じ指導案でも,現場の先生の力量次第ですばらしい授業になることも,そうならないこともあるということ,この二つの点では,まだまだ模索中である。

また,本プロジェクト研究は,家庭科教育学,教科教育内容(被服学),日本文化としての「和服」の研究者がそれぞれの専門性を生かして研究に取り組んでいる。一つのテーマに多様な専門からのアプローチで取り組む研究活動は,筆者にとっても初めての経験であり,チームワーク,フットワークのよい活動である。また,数多くの協力者,そして学生たちの活動に支えられており,このことは,筆者のこれからの研究を進める上での財産となり,示唆に富むものとなっている。

今年は,プロジェクトの研究期間3年間の2年目である。本研究の過程で,また本研究の学会発表などにあたり,研究プロジェクトの趣旨を説明すると,その意義に共感いただく人がほとんどであった。日本人であれば,DNAに刻まれた何かが現在の利便性重視の社会の現状に危機感を感じさせるのかもしれない。

最近は,若者を中心として,花火大会をはじめ,浴衣での外出がファッションの一つとしてとらえられている。本プロジェクトでは,このような日本文化を楽しむ機会に,「きもの」の着装に困ることがない,「きもの」文化の伝承のあり方,そして教育のあり方,海外への発信の方法についての研究を進めている。そして,文化ファッション研究機構の報告書をはじめとして,広く社会に紹介する機会をなるべく多くもちたいと考えている。本研究の今後を見守っていただき,お考え,ご意見があれば寄せていただけるようお願いしたい。


謝辞
本プロジェクト研究は,文部科学省の「人文学および社会科学における共同研究拠点の整備の推進事業」の委託を受け,「服飾文化共同研究拠点」として文化女子大学文化ファッション研究機構により採択された,2009年度から2011年度までに実施される服飾文化共同研究,研究課題名「『きもの』文化の伝承と発信のための教育プログラムの開発―『きもの』の着装を含む体験学習と海外への発信―」として実施された。

著者の他,堀内かおる氏(横浜国立大学),川端博子氏(埼玉大学),扇澤美千子氏(茨城キリスト教大学),斉藤秀子氏(山梨県立大学),呑山委佐子氏(大妻女子大学)の6名による共同研究である。先生方のご尽力に,この場を借りてお礼申し上げる。

また,研究に当たり下記の方々にご協力いただいた。

大妻女子大学総合情報メディア教育開発センター山田光栄氏,同大学助手與儀由香里氏,同大学学生松田美波氏,翻訳家増田久美子氏,横浜国立大学非常勤講師角田麻里氏,同大学教育人間科学部附属横浜中学校家庭科葛川幸恵教諭(当時),同大学教育人間科学部マルチメディア文化課程山本光氏,同大学学生竹内達哉氏ら,同大学学生遠藤亮将氏,埼玉大学学生松井萌恵氏,千葉県立流山南高等学校家庭科仲田郁子教諭,私立吉祥女子高等学校家庭科樋浦陽子教諭・山根晶子教諭,私立洗足学園中学校家庭科山口香教諭,横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉中学校家庭科中尾由美子教諭,川崎市立金程中学校家庭科長谷川伸子教諭,文化学園服飾博物館学芸室室長植木淑子氏,浜松織物染色加工協同組合事務局長曽布川之宏氏,二橋染工場専務二橋教正氏,野口染め工場社長野口汎氏,Design&Technology Department Nigel Zanker氏,ラフバラ町日本人会篠沢久二子氏,浴衣着つけプロジェクトに参加して下さった皆様。ここに紹介し,感謝の意を表したい。

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