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あしたの授業研究

食の自立を目指して
―「自分でつくるお弁当の日」を通した
生きる力を育成するための学習―

福島県立喜多方東高等学校(前福島県立福島明成高等学校) 佐藤真理子

  1.はじめに

  (1)スクールカウンセリングのコーデイネーターの経験から
私は前任校の福島明成高校でスクールカウンセリングのコーデイネーターを6年間務めていた。カウンセリングを受ける生徒の家庭では,どちらかというと,食事をじゅうぶん摂取しないという傾向が見られた。親が料理をしようとせず規則的に食事をつくらない。そのために家庭で親子の会話がないなど。その結果,心と体の栄養不足が意欲の喪失を引き起こし,学校継続の危機へとつながっていった。

(2)食を取り巻く状況
核家族化等家族の少人数化,社会情勢の変化に伴う多忙化により,生徒たちの食はないがしろにされている。調理済み食品,加工食品の多様化以前に,規則的な食生活が営まれていない。欠食のほか,時間的にも内容的にも間食と食事の区別がない,献立の形を呈していないなど,ただ食べることだけに終始している生徒も少なくない。また,そうした状況に慣れてしまっていて,自分の食のあり方を振り返ることをしない生徒もいる。
このままの食生活では,心身ともに健康な子どもたちは育成されにくい。ここで食生活を見直し,食を営む実践力を身に付けさせなければ生徒の将来のみならず,その子孫たちにも悪い連鎖がつながることになると危機感をもった。

(3)「お弁当の日」提唱者の竹下和男先生との出会いから
平成20年11月,「お弁当の日」について知った。提唱者の竹下先生は,食べたい時に食べたい物をただ食べているだけでは,生きている実感がないと言う。お弁当を自分でつくることによって「暮らしの時間」を取り戻し,心の空腹感が減り,自分が生きているという実感が得られるという心の面からのアプローチが斬新かつ実質的で納得した。

(4)半年後の平成21年7月,「お弁当の日」の計画を立てる
私も生徒に自分でお弁当をつくる力を育てたい,自信を付けさせ,生きる力を養いたいと考えた。
竹下先生の小学校での取り組みでは,お弁当づくりによって自信を付けさせ,親や食物を取り巻く人々への感謝の心を養ったりするなどの効果が得られた。しかし,本校での取り組みは,まったなし,朝食,夕食も満足に与えられていない子どももいる,自分で食事を準備する姿勢と能力を養わなければと壮大な目標までもった。
しかし,多忙化している学校現場の中,教員に余り負担はかけられない。できる範囲でまずは担当の私が頑張ることでやってみようと考えた。職員会議で了承され,生徒への告知は,カウンセリングだよりや家庭科の授業の中で行い,また,保護者会でも理解と協力を呼びかけた。




  2.福島明成高校の概要

  福島明成高校は創立110周年を超える福島県内最古の農業高校であり,1学年は5学科6クラス,合計18クラスから成る。農業者育成のみならず,作物の販売,ワークショップの開催などを通して地域に教育活動を還元,地域の学校としての機能も果たしている。生徒数は約700名で男女比は1:1である。稲作,野菜を主に学ぶ「生物生産科」の家庭は三世代同居が約4割を占めており,兼業農家も多いが,県庁所在地である都市部に位置していることもあり,その他の学科は共働きのサラリーマン家庭が多く,非農家の割合が非常に高い。


  3.実施1年目

  (1)平成21年度第1回お弁当の日実施(10/13)
テーマ「自分が食べたい,栄養バランスがとれたお弁当」

将来にわたって,生活を営もうとする意欲と実践力,特に食の自立を育成するために,学校全体で,年2回「自分でつくるお弁当の日」を設定し,実施することとした。年2回としたのは,学校行事の関係で,年2回が限度であったからである。
初めてのお弁当の日は,多いクラスで約半分の生徒がお弁当をつくってきた。朝のSHRでアンケートに記入させ,写真やイラストを添えて,担任に提出。実施状況をカウンセリングだよりにまとめ,配付するとともに,廊下にアンケート,写真,実施状況等を大きく掲示。つくってきた生徒を賞賛するとともに,次回への参考になるようにした。先生方数人もつくってきてくださった。


<問題点>
①実施した生徒が少なかった。
学校全体で18.5%:
1年生22.5%,2年生21.0%,3年生11.9%
3年生が極端に少ない。男子のみのクラスが極端に少ない。食品加工を専門とする学科では,事前に栄養教諭を招いてお弁当を実習。取り組み状況は50.0% とかなりよい。1回目は成績に加算するという話はせず,純粋に「お弁当をつくることの良さ」を訴えての実施,ある意味本当に生徒は自主的に取り組んだことになる。

②生徒の思いを受け止めきれず
学校公開が10月下旬,学校祭は11月など行事が立て込んでおり,多忙の余り,つくってきた生徒たちの思いを十分受け止めることはできなかった。
(2)平成21年度第2回お弁当の日実施(2/8)
テーマ「食品添加物,市販冷凍食品などを使わないより健康を意識したお弁当」

2回目もポスターやちらし等を駆使して告知したが,朝大雪が降って交通機関が乱れ,お弁当づくりどころではない生徒も続出した。しかし,当初からお弁当の日を推進してくださった校長先生は,秘伝のシソ漬けを巻いたおにぎりなどをつくってきてくださった。第2回目のテーマは「市販冷凍食品を使わないお弁当」としたところ,いつも冷凍食品を使っているのでどうやってつくったらいいかわからないという声も聞かれ,実態把握の甘さを反省した。


<問題点>
実施した生徒が少なかった。
学校全体で14.7%:
1年生20.0%,2年生9.2%,3年生実施せず
相変わらず男子のみのクラスが極端に少ない。1回目はつくったが,2回目はつくらなかった生徒が増加(45名)。1回目はつくらなかったが2回目はつくってきた生徒もいた(28名)。


  4.実施2年目

  今年度も実施するかやや迷ったが,ここで止めては効果が上がらずじまいなので,方法を改善して実施することとした。


<改善点>
①学校行事の一つとして明確に位置づける
教職員,生徒に対して共に意識を促す。

②告知を早めにする
4月当初に保護者等にわたす学校カレンダーに,あらかじめ年2回の弁当の日を明記。

③お弁当を自分でつくることの良さを共有する
カウンセリングだより等を適宜出す。

④家庭科で1,2年生対象に献立作成を指導
3年生は授業がないため出来ず。

⑤「まとめの時間」を設定
朝25分間,写真撮影,情報交換,アンケート記入をするための時間を設定。
1年生は夏休み前に献立作成の方法を指導,2年生は食物分野の授業中に献立を作成させ,どちらも実際につくってみることを夏休みの課題とした。栄養のことがあまりわかっていなくても,献立しやすいように「主食」「主菜」「副菜」などと欄を区切って,書きやすいようにした。
→宿題なので成績に入れると告知。
→夏休み後,担当者がアドバイスを記入して,弁当の日の一週間前に返却。

アンケートは,実施してこなかった生徒も答えられるような内容にいつもしてきたが,今回からアンケートを記入する時間が十分確保されたので,実施前後の生徒の気持ちや変容がわかるようなアンケート項目にした。「まとめの時間」では,朝早く起きてつくってきた生徒の思いを受け止め,また,つくってこなかった生徒に対しては次回へ意欲が繫がることをねらいとした。

「まとめの時間」の指導は担任に依頼。高校は教科担任制なので食に関する指導はやや困難にも思われたが,予算や時間がない中,工夫して写真撮影等をしてくださった。担任の先生もお弁当をつくってきてくださった方もいた。しかし,多くの生徒がお弁当をつくってきたクラスは時間不足になり,反対に数人しかつくってこないクラスは時間が余った。これらのことから「まとめの時間」の担任の負担は大きかったと思われる。

(1)平成22年度第1回お弁当の日(10/4)
テーマ「旬の食材を用いたお弁当」

どの学年も実施率は増加,特に1,2年生が飛躍的に増加。学校平均は昨年18.5%から2倍以上の41.7%に。1年の男子ばかりのクラスが16人つくってきて,一同で驚いた。


<実施率>
平成21年1回目 1年22.5% 2年21.0% 3年11.9%
平成22年1回目 1年62.2% 2年47.5% 3年13.4%
1位87.5%(1年5組)
2位73.2%(1年1組)
実施率が上昇したのは,かけ声だけでなく,献立の立て方を指導したことによって知識を得,自分でもつくれるという気持ちにさせたからではないかと思われる。当初,生徒が考えた献立は,卵焼き,唐揚げ,ポテトサラダなど市販の弁当そのものといったものも多かったが,献立作成の際に野菜や海藻,キノコなども活用するように促したところ,素晴らしい献立が増加した。

(2)平成22年度第2回お弁当の日(2/11)
テーマ「大切なあの人に食べてもらいたいお弁当」

日頃お弁当をつくってくれている母親への感謝を述べている生徒が多かったが,昼食にレトルト食品ばかりを食べている父親の健康を気遣って栄養バランスのとれた弁当をつくった生徒もいた。


<実施率>
平成22年2回目 1年生53.8% 2年生19.1% (3年生は実施せず)
学校平均36.8%
自分でお弁当をつくった割合(ランキング上位5クラス)

1位 1年5組 94.9%
2位 1年1組 61.5%
3位 1年3組 55.0%
4位 2年5組 46.2%
5位 1年2組 42.5%


  5.まとめと今後の課題

  (1)生徒の感想
<肯定的な感想>
●つくってみたら楽しかった
●大変だがやりがいがあった
●親のありがたみがわかった
●残さず感謝して食べたい
●一日爽やかな気分
●知識や技術が少し身についた
●食事つくりを手伝うようになった
●こんなに時間がかかるとは思わなかった
●もっと上手につくりたい
●今後時々はつくりたい
●たまにはこういう企画もいい

<否定的な感想>
○朝起きるのがつらい
○面倒くさいのでつくりたくない

まとめ
改善策により実施率が上昇した。1回目は非能率的で6時間もかかっていた生徒も2回目は手早く盛り付けも美しくつくっていた。お弁当づくりは大変だが充実感があったと感想を述べている生徒が多いことから,自信や生きている実感の体得に少なからず効果があったものと思われる。「今後,お弁当をつくりたいか」については,「いつも つくりたい」「時々つくりたい」がほとんどであり,肯定的な意見が多かった。

今後の課題
「お弁当の日」の継続はこのままでは食育担当者や担任に大きな負担が伴う。今後より一層,教職員にお弁当の日への理解を促し,学校行事として仕事の分担をシステム化する必要があると思われる。また,取り組みが少ないクラスは生活態度,学習態度とも低迷しているクラスであり,そういったクラスの生徒にこそ食の自立や自信を促す「お弁当の日」が必要であるが,なかなか浸透しない。丁寧な反復指導が必要である。


■参考文献
竹下和男著「台所に立つ子どもたち」自然食通信社
2006年5月15日発行


■生徒が作ったお弁当


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