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あしたの授業研究

高等学校における企業との連携授業実践報告
―そうめんつゆの開発体験実習を通じて―

東京都立青梅総合高等学校 赤澤愛

  1.  授業実施の背景

  近年,学校現場において,「開かれた学校」となることが求められている。一方で,企業においては社会貢献活動の一環として,教育に対する貢献活動が活発化しているという社会背景がある。こうした動きは,2003年頃から注目され始めた「CSR」(Corporate Social Responsibility)つまり「企業の社会的責任」の概念と深く関連がある。CSR活動の一環として学校への資料提供や,企業人が学校に出向いて行う「出前授業」の実施などの取り組みが見られ,教育貢献活動に取り組む企業が増加傾向にある。

私はこれまで,生徒が「社会とのつながり」を感じることができる授業を実践したいと考えてきた。なぜなら,家庭科における総合的な学びには家庭と社会(世の中)との接点にあたる部分の学習が必要だと考えるからである。さらに,社会との結びつきを感じるというリアリティのある学習が生徒の社会参加意識を高めると考えるからである。しかし,そのような授業を実現できていなかった。

そこで,企業の教育貢献活動を活用し企業と連携することで,「社会とのつながり」を感じる授業を実現できるのではないか,と考えた。企業との連携は,一般的な「社会」との接点も作ることができる上,キャリア教育の視点を採り入れることができ,職業観の育成も期待できる。家庭生活は数多くの企業活動と結びついており,家庭科の授業において企業との連携を実施することにより,社会との接点を作ることができる。現在行っている学習が地域社会における実践と結びついていることを,より強く生徒に意識付けられると考える。


  2.  授業実践の目的

  企業等との連携方法の一つである「企業から講師を招く授業」(今後「企業人による出前授業」と示す)を実施するにあたり,学校と企業,両者のニーズを把握し,以下に示す課題をどうしたら解決できるのかを検討した。

課題の1点目は,「企業の宣伝とならない,中立的な教材作成」である。企業のCSR活動という社会背景のもと,企業による教育貢献活動が広がりつつあるが,中には企業の宣伝につながるような内容を組み込みたいと考える企業が存在することも考えられる。そのような場合,学校が企業の宣伝をどの程度まで許容するのか,企業は「宣伝をしないでほしい」という学校の要望をどの程度まで受け入れることができるのか,について検討した。

2点目は,「企業に丸投げではない授業の構築」である。「学校と企業との連携」は,「学校の企業への依存」になるべきではない。教師が教師としての力量を発揮しながら,外部の教育力を効果的に活用するためにはどのような役割分担が必要なのか,検討した。


  3.  本校の概要

  本校は2006年度に開校した総合学科高校である。「文科・理科」「生活・福祉」「食品・健康」「環境・資源」「生命・自然」の5系列をテーマとした選択科目があり,2年次より進路希望に合わせて選択,履修することができる。

家庭科の教育課程は,1年次に家庭基礎を必履修としている。


  4.  連携授業の概要

  (1)連携企業・担当者
キッコーマン食品株式会社・桑垣傳美氏

(2)実施対象科目
選択科目「生活と福祉」

本科目は,生活に関わる産業(衣・食・住・ヒューマンサービスなどの分野)について学ぶ講座である。また,生活に関わる産業を学ぶ活動を通して職業観を育成することが講座の目的である。

(3)対象クラス
高校2年生50名。平常は25名,2クラスで授業を実施している。本授業は合同で実施した。

(4)日時
高校2年生50名。平常は25名,2クラスで授業を実施している。本授業は合同で実施した。
○事前授業……2007年10月22日(月)7限目(14:50~15:35)
○連携授業……2007年11月5日(月)6・7限目(13:55~15:35)※連続100分で実施
○事後授業……2007年11月12日(月)6・7限目(13:55~14:40,14:50~15:35)

(5)授業のねらい
1)「そうめんつゆ」の開発体験実習を通じ以下の点について学ぶ。
・食品メーカーの仕事を学ぶと同時に,消費者から信頼を得るために企業が努力していること。
・一つの製品が作られ,消費者の手に届くまでの過程において,様々な職種の手を介し,品質を保持していること。
2)実際に商品開発に携わっている企業人の方からお話を伺う体験を通じ,生徒の職業観を育成する。

(6)授業の流れ
生徒50名を8グループに分け,各グループを企業に見立てて,めんつゆの企画・製造・納品までを体験する。

【事前授業】
(1)グループ決め
社長(班長)・企画・製造担当者を決定。
(2)グループ活動
商品のコンセプト・味(配合)を検討。

【連携授業】
(1)企業人講師の講義
入社の契機や仕事内容など。
(2)家庭科教員による活動説明
(3)チーム活動
○製造チーム……4リットルのめんつゆを製造し,8本のペットボトルに充てん。
○企画チーム……ボトルのラベルと商品のコンセプトが5秒で伝わる広告を製作。
(4)納品
製造チームが製造しためんつゆに,企画チームが製作したラベルを貼り,示範台に提出。
(5)完成品の相互評価
完成しためんつゆをそうめんで試食。
<相互評価の観点>
・めんつゆの味
・広告のイメージと味が合っているか
・魅力あるラベルか
(6)投票
評価の結果,最も良いと感じたグループに投票。
(7)企業人講師によるまとめ
納期を守るという限られた時間の中で,最良のものを作ることなど,企業の責任についてお話をいただいた。
(8)片付け

  5.  生徒による授業評価

連携授業の進度が速く,時間内に与えられた課題を終了することが簡単ではなかったが,取り組んでみたいという意欲を湧かせ,高い関心が得られ,実際に取り組んでみて面白かった,楽しかったとの評価が得られた(■1,■2)。企業と連携した授業を通じて,生徒は消費者のニーズを意識したり,生産側の企業がどのような工夫や努力を行っているかを知ることができたのではないかと思われる。


■1 生徒による授業評価
生徒による授業評価

■2 生徒の感想
○趣味と仕事の最大の違いは,時間制限の有無なのかもしれない。色々と大忙しな授業だったけど,とても楽しく,みんなと協力して活動することができた。
○実際に体験して,消費者に提供するということはとても責任と速さが必要なんだと思いました。会社で働いている人達は新商品が出るたびに大変な思いをしているんだと改めて考え直した。
○少ない時間の中で完璧に仕上げるのには,一人だけの力では達成できないということがよくわかった。また,実際に全国の人々の手に渡る物だと考えると,髪の毛一本でさえ入ることは絶対に許されない。常に気を配り,お客様が安心できる,安全なものを作らなくてはならないのだと思った。
○とても楽しい授業でした。時間内に納品できなかったのは残念だったけれど,おいしいそうめんつゆが作れたので,良かったと思います。他の班のそうめんつゆもとてもおいしかったです。
○はじめはつゆなんて作れないんじゃないかとか絶対にマズイのができると思っていたけど,いざ作ってみるとなんだかんだいっておいしいのができた。自分達だけのめんつゆが作れてとても楽しかった。
○微妙な量の違いで味がだいぶ変わるということがわかり,その調整が難しかったです。投票結果2位!なかなかうまくできたと思います。楽しかったです。
○ラベルを考えるのがとても楽しかった。小さいラベルの中にいかにコンパクトに構図を作れるか,それを考えるのに燃えた。
○製造やラベル作りの難しさがよく分かった。とても大変だったけど,おいしくできて良かったと思う。もう少し時間が欲しかったかなと思った。


  6.  課題の検討

  (1)「中立的な教材作成」について
本試行授業を実施するにあたり,企業の宣伝につながる可能性のある部分が数カ所あった。それらについて,授業担当者(2名),家庭科助手,管理職(副校長2名)と話し合いを持ち,不必要な宣伝的内容がないか留意した。また,この話し合いの結果について,キッコーマン食品株式会社・桑垣氏には柔軟に対応していただいた。■3に留意箇所を示す。

■3 留意箇所
留意箇所 話し合いの結果
企業人講師を紹介する際に企業名を紹介する。 必要不可欠。
企業人講師が用意したパワーポイントに社名が入っている。 特に問題はない。
食品メーカーの職業理解の一環として様々な商品を生産していることを示すためにキッコーマン社製品の写真を見せる。 授業の目的を果たすために必要な内容であり,写真を見せることには問題はないと判断する。
製品ラベルの製作を体験する際,キッコーマン社製品を見本として提示する。 特に問題はない。キッコーマン社桑垣氏から他社製品も見本に持参することをご提案いただいた。
製品生産を体験後,製品の試食,投票後,優勝したチームの生徒にキッコーマン社製品を賞品として配布する。 授業の目的を達成するために必要不可欠とは思えないため削除。生徒に賞品を配布しない形で授業を実施する。


(2) 「企業人と教師の効果的な役割分担」について
生徒の興味関心を高めるため,企業の出前授業に授業全てを預けるのではなく,教員と企業人とが一緒に作り上げることを意図し,3回の事前打ち合わせ,約15回の電子メールの授受を経て,企業人と教員,両者の希望が盛り込まれた授業を実施することができた。

企業人講師は「生徒の興味関心を高める情報を提供する役割」と「職業人(プロ)として専門的な知識・技術をアドバイスする役割」,教員は「生徒の実態に合わせた授業を構築するための情報を提供する役割」と「生徒に学習活動を指示する役割」となるよう授業内の役割分担をした。

また,教員と企業人とが一緒に作り上げる授業は,企業人にとっても授業の手ごたえや生徒の反応を感じることができ,生徒・企業人・教員の三者にとって満足度の高い授業を実施することができた。


  7.  おわりに

  企業との連携授業ではどの企業を連携相手に選ぶかが大きな課題の一つである。企業側の意図として宣伝的要素が皆無とは言えないのかもしれないが,そればかりを重視するのではでなく,教育的理念をもってCSR活動を実施している企業もある。まだまだ試行錯誤の繰り返しではあるが,改良を重ね生徒の学習意欲を喚起できるような授業を考えていきたい。

今回の授業は,キッコーマン食品株式会社桑垣傳美様,都立青梅総合高等学校宇佐美貴子教諭,松沼昭子実習助手のご厚意とご協力により実践することができた。心より感謝申し上げます。ありがとうございました。



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