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あしたの授業研究/バックナンバー

他教科と連携した授業実践―「保健」との連携の実践―
東京大学教育学部附属中等教育学校 楢府暢子

  1.  はじめに

  本校は,戦後,新制中学校として発足して以来,中・高一貫教育を実施してきたが,平成12年度より中等教育学校として組織の改組が行われた。と同時に,文部科学省の研究開発校の指定を受け,中高一貫のカリキュラム作りを行った。この時期は,その前後に完全週5日制や新学習指導要領の実施があり,教育課程が大きく変化したときでもある。したがって,限られた授業時数の中で,中高一貫のメリットを活かしながら,効率的なカリキュラムを考える必要があった。そこで,本校では,中学校での「技術・家庭科」を中高一貫の立場から見直し,「技術科」は「理科」と,「家庭科」は「保健」と関係しながら,6か年一貫のカリキュラムを作ることとなった。
ここでは,現在の6か年の教育課程での保健とのつながりの概略と4年生(高校1年生)におけるカリキュラム内容について報告したいと思う。

  2.  6か年の教育課程

  (1)学習指導要領に基づく中学校の授業時間数
現在,中学校の学習指導要領では,「技術・家庭科」の時間が,1年生70時間,2年生70時間,3年生35時間となっている。これを高等学校に当てはめると1・2年生は2単位,3年生は1単位ということになるが,技術科,家庭科というそれぞれの分野で考えると1・2年生は1単位,3年生は0.5単位ずつということになる。そのため,3年生では技術と家庭科を前期,後期で入れ替えたり,隔週で授業を行うなど各校で工夫をしている。
(2)本校での授業時間数
本校では,中等教育学校の特例に基づき,前期課程の3年間(いわゆる中学校)は,家庭科として年間35時間(1単位分)つまり週1時間ずつの授業を行っている。一方,後期課程(いわゆる高校)の必修は「家庭基礎」2単位で,5年生(高校2年生)での履修となる。その他に,選択科目として5年生に通年で被服製作を行う「被服」を,6年生に主に生活を豊かに楽しむことを目的とした「生活文化」を設置している。4年生は履修科目がないので,6か年一貫であるにもかかわらず,途中で家庭科が途切れてしまう形である。
一方,保健は,2・3年生は年間35時間,4・5年は1単位の履修となっている。
(3)保健体育との関連
平成12年以降,様々な方法で保健との連携を試みてきた。その中で,関連づけやすいものとそうでないものが,はっきりしてきた。例えば,被服材料,被服整理などの衣生活,家庭の経済や消費者問題といった消費生活の分野はあまり接点がなかった。一方,妊娠・出産にかかわる母体管理や高齢者福祉,健康問題と関連した食生活,住環境の整備,資源・環境にかかわる消費生活といった分野は部分的に関連していた。
しかし,その扱いは両者それぞれ特徴があった。家庭科は家庭での生活,人の営みといった視点から内容が扱われている。一方,保健は,社会の一員としてという視点や健康を維持するための環境整備といった予防的視点がある。したがって,例えば,同じ環境問題を扱うとしても,保健では水質汚染や大気汚染といった社会問題が健康に及ぼす影響を考えるなど切り口が異なっている。
(4)本校での連携
そこで,1・3・5年生は両教科の独自性を重視,接点の少ない単元を中心とし,関連できる分野を2・4年生に配置するようにした。
連携の形態として,2年生は,それぞれのカリキュラムの中で部分的にクロスカリキュラムを行い,4年生では保健の授業に家庭科教員がティームティーチングの形で加わる形をとっている。
具体的な例を挙げると,2年生の場合,家庭科が住生活で,日照,通風など室内環境を扱う時期に保健で教室環境の測定を行ったり,消費生活で資源と環境を扱う時期を保健の環境問題の時期と合わせて行い,環境に関する課題を合同で出すなどである。また,4年生は,以下に述べるような独自の通年プログラムを組んでいる。

3.  4年生の合科カリキュラム

  (1)年間計画
年間計画は■1の通りである。最初に,人の一生を考えた後,青年期,成人期,高齢期における「健康に関連したキーワード」を中心に授業を展開している。
 
■1 内容と主な項目
内容と主な項目
 
(2)家庭科の視点,保健の視点
①ライフプランと生活の自立
人の一生を乳児期から老人期といったライフステージに分けそれぞれの発達課題を考える学習は,家庭科授業の導入として用いられることも多い。
自分の一生涯にわたる健康を考えるに当たっては,心身の健康だけでなく,社会的にも経済的にも健全である必要がある。そこで,後期課程の最初の学習として,これからの人生に起こりうるライフイベントについて考えさせた。健康面についての視点を提供するなどアプローチが広がった。
②青年期の健康
中学の復習をかねた第二次性徴の学習は,家庭科ではあまり扱わないが,それを基に,男女の違い,妊娠・出産・結婚などに発展させた。保健の内容に限って考えると,妊娠の仕組みを理解し,健康な妊娠・出産,そのために必要な家族計画という形で進むが,家庭科の場合は,メカニズムだけではなく,なぜ産むか,どう育てるかという視点を含む。メカニズム的な側面に個々人の考え方やパートナーとのかかわりを織り込んだ授業展開となった。
③成人期の健康
この時期の健康課題として生活習慣病を取り上げた。保健では様々な生活習慣病の原因や症状などが取り上げられ,それを予防するという視点で食事や運動を取り上げている。そこで,「食事」を見直すために必要な栄養に関する講義を入れたり,自分達の食生活を見直すため,食事調査や中食の分析,塩分・油分・糖分の実験などを行い,内容を深く掘り下げた。一方,保健の立場から「運動」の重要性を盛り込むとともに効果的な運動につい て具体的に話をした。これにより,健康のために不可欠な「食事」と「運動」の両面から説明をすることができた。
④高齢期の健康
人の一生は最後まで充実したものでありたい。保健では「老化」という加齢現象や健康を維持するための社会的取り組みや仕組みについて内容が展開されている。家庭科では高齢社会というものの現状や今後の課題についての理解やよりよい老後を送るために必要な精神的自立や社会的自立,経済的自立などについても触れている。福祉の状況や保険の仕組みを知るだけでなく,現在の日本の現状や将来の予測を理解することによって自分達の将来の問題として真剣に考えられるようになったと思う。
(3)プログラム実施のメリット
この通年プログラムの一番のメリットは,1つのテーマに両者の視点が盛り込め,内容に膨らみをもたせられたことである。家庭科教員では取り上げないと思われる体の機能や運動との関連で,妊娠・出産,ダイエット,老化といったことを考えることができた。授業の内容がより充実したといえよう。また,ティームティーチングという点からいうと,2人の教師がライフプランや子育て,老後の生き方などについてそれぞれの考えを述べた。様々な価値判断が存在する事柄なので,2者の話を通して,生徒が自分自身で判断する機会をもつことができたと思う。また,担当が,男性・女性という組み合わせであったため,教科という枠とは別に男性の立場から,女性の立場からという捉え方もできた。これらのメリットは生徒に大きく還元できると思う。
また,次の学年で「家庭基礎」を学ぶに当たって,ライフプランを理解していたり,栄養素や食品群といった栄養の基本を押さえてあれば,一歩進んだところから学習に入ることができる。また,学習についてのモチベーションも上がっていると思われた。6か年一貫の学校で4年生だけ家庭科がないという不合理性も解消できた。このように教科としてのメリットもあった。

  4.  終わりに

  このプログラムは,学校全体の教科再編という流れの中で成立したという特殊事情から判断して,一般の高校では実施できないという印象をもたれた先生方も多いと思う。しかし,ティームティーチング,通年などといったものではなく,部分的なクロスカリキュラムとして実施することは,十分可能だと思う。保健と家庭科にはよく似た項目があるという話は以前から聞いていたが,実際に教科書を見ると同じ資料や共通した項目や語句がある。しかし,それをもう少し読み込んでいくと展開が全く違うのである。であれば,基本事項をどちらかが押さえれば,その先(展開)から,授業を進められる。お互いの時間を合理的に使うことができるはずである。また,生徒にとっては重複を避けるばかりでなく,習った事柄が利用できる楽しさを知るきっかけにもなる。
また,今回は保健との連携であったが,年金など社会保障の問題は,社会などとの関連も深い。このカリキュラムを作るに当たっても社会ではどのようにどの程度扱うのかを伺った。そのような自分自身のカリキュラム作りに対する姿勢の変化も感じることができた。逆に家庭科の内容を他教科から聞かれることも増え,他教科へ内容を紹介することもできた。
家庭科の授業内容を充実させるため今後も連携について考えていきたいと思う。

*1 東大附属論集48号「健康をライフステージでとらえた合科の試み」,49号「『保健』『家庭科』で行ったクロスカリキュラムによる環境教育」



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