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あしたの授業研究/バックナンバー

私にとっての家庭科
~理科・化学から家庭科に替わって10年~

後 編
埼玉県立川口高等学校 岩田裕幸

  3. なぜ10年間「生活技術」にこだわってきたのか

  この様に,様々に取り組んできた10年でしたが,家庭科の科目としては「生活技術」を行ってきました。県下でもまた全国でも採択数は少ないと聞いていました。しかし,「生活一般」「家庭一般」「生活技術」からの選択に際し,男女共修のねらいの中心は「生活技術」にあると判断し,採択しました。家庭科の授業でも,情報・家庭電気機械にまで幅広く取り組むことを求めた内容が,現代の生活には欠かせないと判断したからでもあります。しかし,今年度からは心機一転,基礎的・基本的な知識と技術に戻って取り組もうと考え「家庭総合」を採択しています。

  4. 伊藤先生の教え

  私の家庭科教員としての再スタートの拠り所となっているのはやはり,女子栄養大の伊藤先生の教えにあります。そこでここに少し長いのですが,伊藤先生が我々に当てたメッセージの一部を引用しておきたいと思います。( )は私の補足です。
家庭科は現在生きるための課題を主体的に判断して解決する能力育成,共同参画型社会の生き方のキーワード「生きる力」の実践力を育成してきた教科といえる。
今後,更に共同参画型社会の男女の協力,親の責任,高齢者福祉マインドと介護,消費生活などを総合的にそれぞれの科目に応じた衣食住等を通して見直しをいっそう進める。「家庭総合」「生活技術」は実験・実習・実践を重視して指導する。技術的内容は,平板的繰り返しではなく,基礎・基本を情報化,少子高齢化,サービス経済化,家事労働の縮小退化を総合的にとらえ直すことによって家庭科の理念を貫いていく(必要がある)。
物つくりが目的ではないが被服や食物などの教材は,それによりやさしい気持ちで夢中になり誰でもやればできる経験による生活への感動,目的をもって誰かのために費やす時間,例えば高齢者の介護などの目的で作る衣服などは家族や周りの人を思いやる豊かな心を産む。生徒が個性に合わせて生涯教育の基礎として少しでも教科の中で体験することが新しい学力観を育てるために重要である。「生活の自立と自律」「福祉の心と態度」「意思決定能力」「問題解決能力」などを一層,情報関連機器を活用して学習指導の質の向上と徹底を図りながら楽しい学習であるように進める。
21世紀を展望した我が国の家庭科が一層の生活の認識と創造力を育てて,思いやりや,正義感,伝統と文化の尊重が出来る科学的認識に立った生活力を育てる。
(今後)科目選択の在り方,ゆとりのある生徒数,1クラスの分割(少人数展開授業)などで…分からない,出来ない,程度が合わない。…を除きたい。そのために情報関連機器の活用など施設・設備の充実,教員の資質の向上などを図ることも能力・適性に応じた教育のために重要であろう。
  私にとって力づけられる内容でした。そんな先生の講義の中で,私がノートの片隅に書きとめた言葉があります。幾つか紹介してみたいと思います。“先行き不透明の社会生きていける力を与えてください”,“感動させる授業を行ってください”,“分からせる授業展開をしてください,分からせる程度の内容で”,“誰でもやればできる,できれば感動がある”,“誰かのために費やす時間は心を豊かにする”,“楽しくなければ授業を行っても仕方ない”,“家庭科の教材には限界がない。到達点もゴールもない”,“無駄なことは授業でやってはならない”等々。これが今でも私の日々の授業への心得でもあります。

  5. 各分野での今までの取り組みとその背景にある思い

  私の授業における課題の設定は,授業を行いながら,生徒の素朴な疑問,一般常識のすれ違いの認識から設定されたものが多くあります。たとえば,マヨネーズに含まれる油の量です。生徒はその油の量やカロリーを意識していないことに愕然とさせられました。また,油に何が使われているかについても認識していないことや,卵の乳化作用についても認識していない生徒が多数でした。このことについては理科の授業を行っていたときには,界面活性剤,コロイドと関連させて説明してきました。このことを踏まえて教材を工夫すると,化学と家庭科の授業を関連づけるいい教材になると思います。その他,食物では,焦げると燃える。香ばしさとは。味とその感じ方。等をテーマに授業を行ったこともあります(少し難しい内容であったようですが,生徒の興味を引きつけるきっかけにはなったようです)。その他これまでに実践してきた授業内容例としては以下のものがあります(それぞれ様々な課題設定の目的・経緯がありました)。
家庭電気分野
◎レポート課題
●電子レンジの得意不得意
●洗濯機の賢い使い方…。全自動vs.二槽式
●省エネの工夫炊事洗濯,冷暖房
●日常生活における交流電流と直流電流

食物領域での実習と課題
◎実習テーマ
弁当作り
●和の弁当,季節の彩り弁当,思い出の弁当
世界の家庭料理
●パエリャ,アホスープ,トルティージャ(スペイン)
●ジャジキ,ムサカ(アテネオリンピックをテーマに設定した内容)
●フォー(ベトナム)
◎実験的実習
●マヨネーズ
●コーヒー(豆の種類,抽出方法,挽き方の違い等)
●世界の出汁の取り方…コンソメ,昆布,鰹,煮干し,椎茸等々
◎レポート課題
●3日間の食べたもの分析…その後,コンピュータ処理と分析
●我が家の晴れの日の食事(メニュー,レシピと食事の様子)

被服領域での実習と課題
◎実習
●原型・型紙作成…ベスト製作
●コンピュータによる被服デザイン…子どもの遊び着,高齢者介護被服のデザイン
◎レポート課題
●衣類の化学処理…抗菌,防かび,防臭その他
●漂白剤のいろいろとその使い方の注意
●酸化・還元漂白剤とその特徴・使用法・注意点
●洗剤の種類とその取り扱い方
●夏(冬)を快適に過ごす衣服の工夫
◎実験
●繊維の特徴吸水性,燃焼

住居領域での実習と課題
●コンピュータによる部屋のインテリアデザイン
●コンピュータによる戸建て平面図~3Dへ発展

その他領域での実習と課題
●保育等「子どもと遊ぶ」工夫,手作り遊具
●ライフサイクル(ステージ)作成

これらすべての実習の後は個人およびグループでのプレゼンテーションをさせています。プレゼンテーションは,コンピュータ(パワーポイントや他のプレゼンテーションソフトの利用)やOHC,パネル等をそれぞれの内容にあった,またメディアの特性を活かして行わせています。また,その様子はビデオ録画して自分たちの内容を分析するのに使っています。調理実習では,生徒にデジタルカメラ(携帯電話のカメラをそのときは特別に許可して)で撮影し,レポートに添付し,提出させています。

実習と課題に関する評価について
基本的に,生徒自身に相互評価及び自己評価させる。また,生徒それぞれのレベルと到達度を判断することで評価している(生徒のレベル設定は,それまでの提出課題や実習状況。また毎時間の実習への取り組みの姿勢を評価)。毎時間の状況をメモ的に評価することは大切な生徒とのコミュニケーションにもなる。

  6. 終わりに

  家庭科は,非常に奥の深い特殊な教科であるとますます感じています。非常に多くの教科との接点を持つ総合科学的内容であるとともに,歴史と文化の基礎も押さえておかなければならない教科です。また,自分自身の毎日の生活実践が授業につながっています。授業のテーマは時代とともに急激に変化して行かなくてはならない部分もあります。しかし,その国や民族の培ってきた生活文化をも見直す事を教えなくてはならないと思います。たとえば「我が家の晴れの日の料理と食事調べ」では,晴れの日の定義すら覚束なくなってきています。調べ学習の中で両親,祖父母と話していくうちに,少しずつその意味が分かっていくこともレポートを読むと見えてきます。このように,家庭科の授業を通して,生活の中に築かれてきた食の喜びと感謝が見直されることは,意味のあることのように思えます。また,何気なく使っているけれど,本当の意味や仕組みについては全く理解していないことについて気づかせていくことも大切なのではないでしょうか。常識が常識でなくなってきている今,私は少しでも生徒に知る喜びを感じさせていきたいと思って授業に望んでいます。毎時間の授業を振り返り,授業ノート(コンピュータ)にその反省や生徒の反応を記録していますが,その記録を書く時間がとても貴重であることを実感しています。そして次に何をテーマにすれば生徒が反応してくれるのかを楽しみにしています。



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