HOME>情報のひろば>あしたの授業研究>バックナンバー
あしたの授業研究/バックナンバー

地域との連携から生まれた家庭科の授業
神奈川県立伊勢原高等学校 山田貴子

  1.  はじめに

  私が平成12(2000)年に転勤した時,本校は神奈川県教育委員会の指導を受けて「特色ある高校づくり」に取組んでいる最中でした。家庭科としては,「段階的発展の学習の充実」という学校目標を受けて,家庭科技術検定を積極的に推進してきていましたが,新たに地域との連携を重視したプログラムを用意するように求められました。ところが,私は学校はもちろんのこと,地域についてもほとんど何も知らない状態でしたので,どうしてよいか分かりませんでした。半ば途方に暮れながら立てた方針が次の3点でした。
 (1)市役所に情報を求める
 (2)JA,地域の識者に相談する
 (3)PTAに協力を求める
これから見ていただく事例は,この方針にそって行動した中で実現できたものです。市役所は地域の情報センターであり,最も効果的に必要な情報を得ることができる場所です。こちらの要望がはっきりしていれば,それに相応しい人や団体を紹介してくれます。現在の「人材バンク」機能でしょう。初年度の企画の1つであった「伊勢原に伝わる手打ちうどん実習」はまさにこの方法で実現したものです。
市役所の方のアドバイス,地域の講師のみなさんの支援,本校の先生方の協力があってはじめてバラエティーに富んだ授業実践が可能になりました。地域連携型の家庭科実践もおかげさまで6年目を迎えることができました。幸いこの取組をさらに発展させるべく昨年,同教育委員会より「特色ある教育活動の推進特色ある教育活動の提供 家庭科・生活教育における取組」の支援を受けました。今後もぜひ,発展させていきたいと思います。
それでは,以下に具体的な取組内容を挙げさせていただきます。

  2.  これまでの授業実践例

  ①3年選択食物 地域の食文化を学ぶ
◆「伊勢原に伝わる手打ちうどん」(実習)

この実習は,地域の食文化研究家を講師に招いて行いました。今年で6回目となり,選択食物(今年度からフードデザイン)の授業として定着してきました。実習では一班以外は,途中から機械を使って作業をし,一班だけ最初から最後まで手作業(一切機械を使わない)で,うどんを作りました。手作業だけの班はさすがに,手も疲れて痛くなったといっていました。しかし,うどんをゆでていざ試食となったら,手作業だけで作ったうどんの方がさらにおいしいということを実感できたようでした。
◆「伊勢原の食の歴史・食文化について」(講義)
これは,昨年度から新たに加えた内容で,上記の講師の方にお話ししていただきました。その中で,「なぜ伊勢原にうどんなのか」の説明については,生徒が強い関心をよせていました。
生徒の感想(実習)
すごくおいしくできてよかったです。私の班は全部手打ちだったからすごく“コシ”があっておいしかった。機械でやったものはコシもなく,かみごたえがなかった。今までだとたぶん手打ちと機械の違いがわからなかったと思う。本当によい体験ができてよかった。
生徒の感想(講義)
小麦にはいろいろな歴史があるのだと知りました。一番たいへんな時期(第二次世界大戦の頃)に必要とされていたのだなあとはじめて知りました。昔は家でよくうどんを作っていたなんて知りませんでした。今はめったにうどんは作らないし,へたしたら家庭では親がうどんのつくりかたを知らないと思います。でも,今は小麦もほとんど輸入になってしまっているのが悲しいことだと思いました。日本では小麦はあまり作られていないのだなあと思いました。うどんを作るのに片栗粉を2割入れているのには驚きました。

手打ちうどん(手打ちうどん実習)

②3年選択食物 農園実習
◆伊勢原の果樹園・農園」(見学):春
◆「伊勢原の果樹園・農園」(見学と実習):秋

これは,「伊勢原に伝わる手打ちうどんづくり」で講師をしていただいた方の農園で実施しました。この農園では柿をはじめ様々な果樹や野菜を栽培しており,稲作もしています。収穫したものを加工して,無添加の食品(梅干し,味噌,しょうゆ,うどん,そばなど)を作っており,「農業の原点」を見る思いがしました。春の見学では,「農業の歴史や農業技術の変遷」などについての講話と自家で作った食品の試食をさせていただき,生徒にとっては実に楽しい体験になりました。
秋の見学では,「農作物と柿について」の講話と自家で作られた食品の試食をさせていただいたあと,生徒は実際に柿の収穫に挑戦し,貴重な体験ができました。
生徒の感想(春)
私の家は農家でないため,知らないことがたくさんあったり,はじめて見たものもありました。農業の分野でも,とても幅が広く歴史も奥が深いものでした。柏餅に使う柏の木をはじめて見たり,食用ではなく花を見るためのしだれ梅があったりしました。しだれ梅は花が見たかったです。農園でとれたお米や野菜もご馳走になりました。おにぎりはおいしくて,ぬか漬けのきゅうりやお味噌汁もとてもおいしかったです。手作りのお味噌やおしょうゆも作っていてとても勉強になりました。暑い一日だったのですがとても楽しい時間でした。
生徒の感想(秋)
この前(春)に行ったときと違って,柿の木にたくさんの実がなっていることに感動しました。家の中に入らせていただいて,次から次に原料からそのまま作った手作りのすいとん,おそば,うどんと出てきて,特に焼きおにぎりがおいしくて幸せでした。落花生は私の祖母が昔作っていて,一緒に抜いたりしたけど,私は最近畑に行ったりしていないので,久しぶりに落花生の収穫を見て懐かしかったです。柿の収穫は,すごく楽しくて,赤くて大きいのを取るのに夢中になって写真も撮りました。今までは,収穫してすぐに皮ごと食べる機会がなかったけれど,今回はその場で皮ごとそのまま食べて「おいしい」って思いました。貴重な体験ができてよかったです。

果樹園(果樹園の見学)

③家庭クラブ 地域の食文化を学ぶ
◆「大山豆腐づくり」(実習)

大山豆腐は,伊勢原市大山に江戸時代から伝わる豆腐です。大山は「大山詣」で知られる山岳信仰の霊山で,そこに祀られる大山阿夫利(あふり)神社は「雨降り(あふり)神社」とも呼ばれ,昔から雨ごいの神様としてたくさんの人々の信仰を集めてきました。大山詣に訪れる人々は,ふもとに立ち並ぶ宿坊への宿泊代として自作の大豆を手渡すことが多く,その大豆と大山の清流が出会って生まれたのが大山豆腐です。以来,大山は「豆腐の里」として親しまれてきました。
この実習は,その大山で豆腐店を営む方(本校PTA)を講師に招いて行っています。本来ならば,この実習も選択食物の授業で取り上げたいのですが,講師の方の定休日と日程が合わないため,家庭クラブで実習をしています。
講師のご夫妻は,「いい大豆といい水に出会えたことが豆腐づくりには一番。大豆と水がよければ美味しい豆腐はできるんですよ。それといい機械もね」とおっしゃっていました。
生徒の感想
私は初めて豆腐作りをしました。だから,豆腐の作り方などどれも新鮮で興味津々でした。大豆から豆腐に変身する過程が学べたことはとてもいい経験ができたと思っています。ゆばやおからのことも少しわかった気がします。豆腐作りを通して,いつも食べている豆腐への知識などが高まるといいなと思いました。本当に美味しい豆腐は,味つけが必要ないことを知りました。豆腐作りは簡単そうだけど意外に作るのに時間がかかり,これを毎日何丁も作っている豆腐屋さんはすごく大変な思いをしていると思いました。これから豆腐を食べる時は,一生懸命作った豆腐屋さんと私たちが生きるために使われた大豆に感謝したいです。豆腐は大豆のすべてを使って食べられる食品でした。豆腐に感謝! 今回の体験はすごくよかったです。そして楽しむことができました。ありがとうございました。また来年あればやりたいです。

大山豆腐(大山豆腐作り)

④2年家庭総合 保育分野「エイズ」を学ぶ
◆「南アフリカのエイズで親を亡くした子どもたちとABCキルト(*)について」(講義)

これは地域のボランティア団体(ABCキルトの会いせはら)と地元の大学生の協力を得て実施しています。2学年の全生徒がエイズについて学習することを前提として企画されました。目標の1つは,「ABCキルトの製作」でしたが,これは南アフリカのエイズで親を亡くした子どもたちにキルトを製作して届けることをおもな内容としたものでした。これを契機として本校の生徒たちと孤児たちとの心の交流がはかられています。家庭科のみならず,広く人権教育の面からも貴重な体験となっています。
授業の一部を紹介します。
まず,生徒が南アフリカのイメージを模造紙に書くことで授業が進められ,これによって生徒のもっていたイメージと実際の南アフリカのそれとのズレが次第に明らかになっていきました。このワークによって生徒は,エイズをより切実な課題としてとらえるようになりました。生徒はワークショップ形式の展開に積極的に参加していました。そして次の時間のキルト作りでは,「自分にできることは何か」という明確な目的意識を持った上で取り組めていたように思われました。この意識の変容は重要な意味をもちました。
生徒はキルトを各クラス1枚ずつ製作し,そのうち2枚は,3月はじめに講師の方を通じて南アフリカに届けられました。
生徒の感想
南アフリカのこどもたちの様子や,文化,食生活etc,初めて知ったことや学んだことが沢山ありました。驚いた部分もいくつかありました。イメージすることは本当に大切なんだなと感じました。それから,世界はつながっているということ。なんだかよくわからないけど,自分は1人じゃないんだという気持ちと,とても暖かいものにつつまれ生かされている感じがしました。世界はとてつもなく広いけど,その中で人の心はつながっているんだろうな。今日は本当にありがとうございました。南アフリカの人たちに私たちの愛が届くことを思いながら…。
*ABCキルト:At Risk Babies Crib Quiltの略称。エイズにかかった赤ちゃんたちや難病で入院している子どもたちに“愛と励まし”を贈る目的で1988年にアメリカではじまったキルト運動。

キルトキルト

([左]ABCキルトを作る,[右]完成したABCキルト)


  3.  終わりに

  本校でのこれまでの取組は,基本的には神奈川県教育委員会が提示している「特色ある高校づくり」という方針によって進められてきています。私はこれまでの取組によって,その学校の「特色」は,何もないところから何かを作り出すのではなく,もともとあるものを見えやすくするだけだと思うようになりました。そういう意味では,私が果たしてきた役割は一種のコーディネーターだったのではないかと考えています。
この6年間で私が実感したのは,目標・目的が明確であれば,それに相応しい人や情報が自ずと見つかるということです。生徒との雑談の中から「大山豆腐作り」の講師を務めてくださる方を知り得たのは貴重な経験でした。いわば「人づて」に人材バンクが形成されていくのを体験できたわけです。
貴重な経験といえば,忘れられないのは年配の方たちと生徒の和気藹々としたやりとりです。学校での生徒と教師という限られた人間関係を離れ,現代社会に身を置いているという実感がありました。双方にとって,良質の交流になっているように思われました。異世代間交流は今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。


このページのTOPへ

このページのTOPへ バックナンバー一覧へ