手にするたびに、知的興奮を伝えてくれる辞書が確かに存在する。『ジーニアス英和大辞典』は、紛れもなくそうした辞書の筆頭である。 『G大』の編集方針は従来の大英和と大きく異なっている。それを一口で言えば、英語の受信だけではなく、発信までも射程に入れた学習情報を、豊富な語彙と統合した点と言える。この結果、25.5万項目という、『ジーニアス英和』の2.7倍の収録数を誇りながら、同時に学習辞書としても使えるという、世界に類を見ない辞書が出来上がった。 語数だけを見ると、『グランドコンサイス英和』の36万、『小学館ランダムハウス英和大』の34.5万といった、それを上回るものもある。しかし、一般に英語の語彙は基本2千語で全体の8割、6千語で9割をカバーしており(いずれも活用形・派生語全部を1語とカウント)、それを超える部分については、個人の専門領域に関わるところが大きい。よって、日常で頻度の高い新語さえ押さえてあれば、単純な収録項目の比較は意味がない。 むしろ、着目すべきは、『G大』が膨大な語彙と共にスペースを割いた、以下のような発信情報なのである。 たとえば、『G大』で名詞 information(情報)や permission(許可)を引けば、そこには[u]ラベルがついているから、これらの語には不定冠詞を使って a(n) ~ としたり、複数語尾を付けて ~ s のようにしてはいけないことがわかる。 動詞型もそうだ。suggest を使って、「離婚申請をすべきだと彼女に勧めた」と言いたいとする。同項目を見ると、I suggested to her (that) she (should) file for divorce. という型になることがわかる。しかも、それだけではなく、日本人が誤りがちな ×I suggested her that she should ~ や ×I suggested her to file ~ といった構造が不可であることまで、ちゃんと教えてくれる。 語と語の意味的なつながりを示すコロケーションや用例についても、『G大』は実に豊富だ。temptation(誘惑)を引くと、fall into ~(誘惑に陥る)、overcome ~(誘惑に負けない)など、動詞とのコロケーションが8個、形容詞句との連結2個が入手できる。 用例についても、豊富な新語・専門語の相当数にまで例文がしっかり載っているのは、異例のことである。インターネット用語の download(ダウンロードする)を見ると、 The software can be ~ed free from http://www.ABC.com.(そのソフトウェアは http://www.ABC.com から無料でダウンロードできる)という例文があり、その用法がわかる。 そして、セクシズムについても、ちゃんと、注記がある。 Each student has received ( ) diploma.(学生はめいめい卒業証書を受け取った)の場合、( ) 内では his では男性のみを含意して不適切なので his or her と言えるが、通常、 their で代用できることもわかる(each の項目他)。 このように、『ジーニアス英和大辞典』は、膨大な語彙数を利用して英文を読むと同時に、英語で電子メールを出したり、英語で発表・交渉をしたりするような学習者・ビジネスパーソンには必携のツールと言えよう。 さらに書籍だけではなく、CD-ROM版も出たことで、パソコンにインストールしてこの小宇宙を持ち運べるようになった上、デジタル検索の利を生かしてSVO to do となる動詞を検索するといった芸当もできる。アナログでもデジタルでも、21世紀は相当この辞書のお世話になりそうである。
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