内容
日本人は「近代にふさわしい身体」をどのように創ったか?
近代国家が作られた明治期の日本人の身体観は、「強い兵隊」のもとに学校体育・軍隊・国家が求めた「体錬」を通してもたらされた。外国との身体の比較研究により伝達された身体観や、脱産業社会下で求められたレクリエーション志向の身体観、大学や企業・社会が求めた身体観、江戸から明治、そして現在にも続く、日本人の身体観を歴史文化的に明らかにする。
目次
はじめに
第一章 江戸の身体から明治の身体へ
――嘉納治五郎の柔道にみる近代の身体――
一.嘉納治五郎が創り上げた柔道に期待された身体
二.三育主義教育と柔道
三.物理学と心法
四.おわりに――エスノサイエンス身体論からサイエンス身体論へ――
第二章 大学が期待した学生の身体
――学生スポーツ団体をめぐるやり取りの分析を通して――
一.なぜ東京帝国大学は学生スポーツ団体を支援したのか
二.東京帝国大学運動会の歴史
三.大学が抱えた問題と大学が期待した学生の身体
四.大学が学生に期待した<健康で健全な身体>
第三章 “劣った身体”の発見
一.東京大学医学部の歴史――日本初の大学医学部の誕生――
二.“日本人のからだ”=“劣った身体”の発見
三.おわりに――日本の近代化のはじまりは身体の近代化のはじまりか――
第四章 “蛮カラ”な運動部員の思想と身体
一.スポーツにおける先駆者としての旧制高校と帝国大学
二.旧制高校と帝国大学における学生文化の変遷と運動部員
三.旧制高校とパブリック・スクール
四.“蛮カラ”運動部員の変容――スポーツ資源の供給者から消費者へ――
五.おわりに――“蛮カラ”から“体育会系”へ――
第五章 レクリエイトされる身体
――自律化するスポーツ空間/グローバル化するレクリエーション――
一.「スポーツ空間」成立前史としての公園設置運動
二.「自然的体育」から「人工的体育」へ
三.YMCAのレクリエーション
四.レクリエーションのグローバル化とスポーツ
五.オリンピックと国家的レクリエーションのグローバル化
六.おわりに――レクリエーション活動によるスポーツ空間の拡大と課題――
第六章 “体育会系”神話の起源
――近代企業が求めた有用な身体――
一.戦間期スポーツマンに対する実業界の評価
二.“体育会系”神話の胎動――大正初期の就職環境――
三.“体育会系”の可視化と「体育熱」の高騰――大正中期の就職環境――
四.“体育会系”神話の確立――大正末期/昭和初期の就職環境――
五.“体育会系”神話の洗練――昭和初期以降の就職環境――
六.“体育会系”の身体と“教養系”の身体
第七章 近代日本が否定した「身体」
一.近代日本が否定した身体――「裸体」
二.「裸体」否定はいかにして全国に伝播したか――学校と新聞が果たした役割――
三.「裸体」否定理由の変化――日露戦争と「裸体」――
四.おわりに――「裸体」習俗の変容とさらなる課題――
第八章 経験と切り離された身体の行方
――健康をめぐる近代的身体の一断面――
一.経験と分断された健康の知
二.健康教育運動の興隆
三.戦時下の学校衛生改革――連繋、合理化、科学化、綜合化の追求――
四.健康の内面化と習慣・態度の訓練
五.「健康教育」のその後――合理的な自己コントロールの浸透と抵抗――