中国語の歴史

ことばの変遷・探究の歩み

内容

甲骨文字の時代から現代中国語まで

中国語を書き表すために、人びとは漢字という文字を創りだした。漢字が表す〈形〉〈音〉〈義〉そして〈文法〉は、時代とともにどのように姿を変えてきたのか。人びとは自らのことばをどのようなものとしてとらえてきたのか。古代から現代に至ることばの変遷と探究の歩みを、文化史的な視点から描きだす。

目次

まえがき

◆第1章 漢字の <形> のはなし
1 はじめに――中国語と漢字
中国語の誕生と受難の旅/中国語とはどんな言葉か――その特質
漢字――中国語のために創られた文字/漢字の簡略化とローマ字表記[魯迅の主張/毛沢東と周恩来の指針/注音符号――仮名のような文字]
 [コラム]
 (1)パスパ文字――砂漠に消えた文字 
 (2)普通話――全国共通語
 (3)★音(ピンイン)――ローマ字表記
 (4)アクセントと声調 
 (5)中国語の音節の仕組み 
 (6)漢字の創造者――蒼頡
 (7)表音文字と表語(表意)文字

2 漢字の変遷――甲骨文から楷書まで
甲骨文――王と大臣の文字/金文――功労者たちの文字/小篆――皇帝の文字
隷書――役人たちの文字/漢字の習得――立身出世への途
識字テキストの登場
字形の混乱/字様書の誕生――楷書の規範化/『千禄字書』――楷書の俗・通・正体の規定
漢字の将来
 <こぼれ話> 甲骨文をめぐる人びと
 [コラム]
 (8)甲骨文の発見――一つのエピソード 
 (9)隷書の起こり
 (10)秦書八体――八種の異体字
 (11)異体字――字体のバリアント

3 字書の編纂の流れ――部首法を中心に
『説文解字』――六書と部首法のはじまり[著者と著述の動機/文と字――漢字の基本体と派生体/部首法――文字群の形成]/部首法の継承――権威の保持/部首法の変革――権威への挑戦
[『龍龕手鑑』――四声で配列/『五音篇海』――頭子音で配列/『字彙』――筆画数による配列]
 <こぼれ話> 段玉裁と『説文解字注』[『段注』の内容/『段注』完成までの苦渋――劉台拱への手紙]
 [コラム]
 (12)六書――漢字のつくられ方と用法 
 (13)国字――擬似漢字
 (14)『説文解字』テキスト
 (15)漢字の意味――本義と転義

◆第2章 漢字の <音> のはなし
1 音韻学の夜明け
中国音韻学のはじまり/四声(声調)――現代音と古代音の違い/四声への理解
双声・畳韻――音節の二分法/反切――中国固有の表音法
 <こぼれ話> 反切にまつわるエピソード[反切を口で唱える方法/反切と吉凶の占い]
 [コラム]
 (16)反切のはじまり 
 (17)双声・畳韻の余話 
 (18)連錦語――二字で一語
 (19)○○切と○○反

2 古代中国語音を蘇らせる資料たち
韻書のはじまり/『切韻』――韻書の集大成/『広韻』――その内容と体裁
『広韻』の同用と独用の定め/許敬宗という人物/韻図――現代的な音節表
韻図のはじまり/『韻鏡』――その内容と体裁/『韻鏡』と豊臣秀吉
補助となる資料たち[外国漢字音/現代中国の方言音/対音資料]/中国音韻史の時代区分
 <こぼれ話> 『中原音韻』誕生の背景
 [コラム]
 (20)切韻系韻書 
 (21)『大栄重修広韻』 
 (22)上平声・下平声と五音
 (23)韻の四声相配
 (24)清と濁――声母の分類 
 (25)三十六字母――声母の代表字
 (26)等位――韻母の分類
 (27)広母音と狭母音 
 (28)異色の韻書――『蒙古字韻』と『西儒耳目資』

3 中古音から唐代・現代音へ
古代の音を復元する/カールグレンの業績/声母・韻母の変化
(1)声母
有声音の無声化/軽唇音の発生/そり舌音の発声[舌音/歯音/半歯音]
牙音・歯頭音の口蓋化/鼻音性の消失/喉音の半母音化/喩母三等と四等の合流
(2)韻母
四等韻の拗音化/止摂四韻の合流/一等重韻の合流/二等重韻の合流
「子」字の末尾子音の変化/末尾子音のmがnに変化
(3)声調
中古音の声調/声調の変化[入声の消失/平声の隠平と陽平への分化]
 <こぼれ話> 『玉篇』の反切/清朝の上古音研究[六書音均表/上古音の声調]
 [コラム]
 (29)反切系聯法――反切用字の整理と分類 
 (30)前舌・中舌・奥舌母音

◆第3章 漢字の <義> のはなし
1 義書の編集――古代語の収集と整理
義書と訓詁学
(1)『爾雅』――義書の誕生
古代語彙の分類百科/訓詁の書から経典へ/著者をめぐって/成書年代をめぐって
資料としての価値/『爾雅』の継承
(2)『方言』――地域方言の調査と収集
言葉の地域差/地域方言の収集/『方言』の著者――はたして揚雄か/内容と体裁
郭璞とその「方言注」/資料としての価値/揚雄――その人と方言調査の動機
方言調査の復活/歴史語言研究所による方言調査
(3)『釈名』――語源を探究した書
声訓による語源の探究/語源探究のはじまり/内容と体裁/資料としての価値
継承と展開[右文説から因声求義へ/単語家族説の登場]
 [コラム]
 (31)中国の文献学 
 (32)石経 
 (33)『四庫全書総目提要』
 (34)「霍山為嶽」をめぐって
 (35)『爾雅』に日本版 
 (36)地域方言と社会方言 
 (37)方言の調査と記録
 (38)『方言』をめぐる謎
 (39)『方言』と揚雄の書 
 (40)等語線の束 
 (41)国際音声字母
 (42)中央研究院歴史語言研究所
 (43)方言地図 
 (44)『湖北方言調査報告』 
 (45)『釈名』別伝――著者をめぐって
 (46)『釈名』の日本版

2 語彙の諸相
語彙研究へのアプローチ/単音節語から多音節語へ/音の形の類似性/意味表示の転用
同義語/類義語/語の多義性/語彙の借用――外来語の導入/音訳語と意訳語
満州語からの借用

◆第4章 中国語の <文法> のはなし
1 中国語の基本的な文構造
中国語の文法は変化したか/基本的な文の構造/殷代・ト辞の構造

2 文法研究の夜明け前
文法研究と中国語/文法研究の前史――虚詞の探究/『助字辨略』/『経伝釈詞』
 [コラム]
 (47)虚詞についての最初の書

3 文法研究の夜明け
愈★(ユエツ)の説く「文法」/文法(書)の記述について/『馬氏文通』――文法書の誕生[著者について/著述の背景/構成と内容/西洋文法の模倣]/中国の夜明けを前に
 <こぼれ話> 文語――その歴史[文語と口語/文語の変革]

4 文法研究の創成
文語文法/「国語」と口語文法/黎錦煕『新著国語文法』/革新と発展
王力『中国現代語法』/呂叔湘『中国文法要略』/高名凱『漢語語法論』
文法研究の新時代
 <こぼれ話> 「文法」と「語法」
[コラム]
 (48)記述文法 
 (49)直接構成要素分析

5 表現法の移り変わり
繋辞の「是」・指示代名詞の「是」/使役文/受身文/処置文/使成式
「他・★(タ)・它」について/「們」について/「一個・一種」について/「…子」について
「老…」ついて/「…化」について

あとがき

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